練馬区では、住民と農家との連携、食の豊かさを発信し、そのフォロー体制が実に細やかに行われいてる。

そのひとつの現れが練馬の農業を紹介する優れたパンフレットだ。

46ページにもなる「ねりまの農業」は、カラー印刷の見ごたえある内容。日英対応となっていて、ホームページからもダウンロードできるようになっている。農家の顔写真入りの紹介や農産物の写真も豊富で、一般の人が購入や体験できる活動の案内や、豊かな農産物が身近にあることをわかりすく紹介されている。

練馬区の農業のこと。練馬の伝統的野菜である練馬大根の話。キャベツは23区内でもっとも作付け面積が多く、生産量は都内で最も多いこと。イチゴ、柿、栗、ブルーベリーなどの直売所での購入や摘み取りのできる「果樹あるファーム」の紹介。

平成9年から始まったジャガイモ、サツマイモなどの収穫体験イベント。23区唯一の小泉牧場での酪農体験。

冊子「ねりまの農業」の中の一部。農産物や関わる人も紹介されている。

区民が自分たちで野菜が栽培できる区民農園(休息施設のない農園22農園、総区画数1679区画、1区画15㎡、使用料月400円。休息施設のある農園5農園、総区画数247区画、1区画30㎡、使用料月1600円。ただし、障害者優先区画は1区画20平方メートル、使用料月1100円))と、農家が野菜づくりを教える「農業体験農園」の紹介。区内に200か所以上ある直売所、JA東京あおばの直売所や農業祭。

都市農業を支えるプロの農家が教えて農業サポーターを育成する「農の学校」の取り組み。
 
農のある風景を保全・育成する取り組みとしての「農の風景育成地区」に指定されている高松地区(一丁目、二丁目および三丁目の一部)、南大泉地区(三丁目および四丁目)。

練馬区を含む都内38自治体で構成される「都市農地保全推進自治体協議会」(練馬区長が会長)による都市農地の保全活動。
区内の小学校での、給食での地産地消と農業体験などの食育活動。
練馬区の野菜が累計で1、1767a、栽培されるキャベツ、ブロッコリー、ダイコン、枝豆、ジャガイモ、トウモロコシを始め、栽培品目と作付け面積が紹介されている。その他の品目2689aで栽培される、ブルべーリー、柿、ミカン、梅、ブドウ、栗、キウイなどや、芝、植木や花類など。

練馬区内に多くある区民農園。多くの人が利用している。

23区それぞれの農地面積。練馬区の農地面積の推移、主要作物の作付推移、区内の土地利用比率、農作作物の販売形態、農家戸数の推移と従事者数、農家の生産物別の延べ戸数。

年間の作物のカレンダー。イチゴ摘み、ブルベリー摘み、キウイ摘みや、収穫体験など年間のイベントスケジュール。

練馬区の農家のマップ。

といった内容だ。多彩でこまやか。

「農の風景地域育成地区」に指定されている練馬区高松にある区民農園

練馬区には花を販売する直売所もある

注目の世界5か国との都市農業サミット
 
冊子「ねりまの農業」のほかに直売所のマップ「練馬区・農産物ふれあいガイド」がある。これは農産物直売所がJA運営のものが5か所、農家が直接販売するものが105か所掲載されていて、すべての住所と栽培しているおもな農産物、年間の作物カレンダーを掲載。裏面はマップになっている。これも練馬区のホームページからもダウンロードができる。

掲載は承諾のあった105か所だが、実際には275か所ある(令和2年度農業経営実態調査調査)。
 
また、練馬区内の農産物直売所や練馬産農産物を使用している店を調べられるアプリ「とれたてねりま」が配信されている。直売所や店の販売情報、イベント情報など旬の情報が紹介される。

「農家さんが自分でアップしたアプリも掲載されています。我々がプラットフォームを用意して、農家さんは、今日の農産物とかを紹介している。コラムを書いている方もいます。一般の方には農家さんの人柄や何を栽培して売っているかもわかります。アプリ登録農家は80軒以上の農家さんが登録しいています。
 地産地消を推進する上で、練馬の農産物を使ってくださる飲食店、洋菓子屋さん、和菓子屋さん、福祉事務所なども登録していただいています。洋菓子のケーキ、イタリアンの店などもあります。登録は56軒です。
 我々も人柄がわかりますし、区民の皆さんに直売所巡りや地元の農業に触れてもらえる。農家さんと地域を繋ぐツールです」(練馬区都市農業課)

練馬区の農業で注目は、2019年11月29日から12月1日に開催された「世界農業サミット」だ。世界の都市でも農業に触れる環境が作られている。そこで、ニューヨーク、ロンドン、ジャカルタ、ソウル、トロントと連携してのサミットが開催された。

「練馬区の農業を世界に発信できないか。それぞれの国の取り組みの違いを知ることで、今の練馬区の位置が分かってくるのではないかという話しから始まりました。練馬区で、代々農業を行ってきた農業者の皆さんにも協力をいただいて、練馬区区役所内でいろんな部署が関わってオール練馬区で行いました。文化・芸術の部署も入ってもらいました。「世界都市農業サミット実行委員会」が平成29年にできました。職員と実行委員会が、それぞれの国の現地を訪問もしました」(練馬区都市農業課)

さらには都をはじめ農林水産省、外務省、国土交通省、各国の大使館など、多くの後援、協賛がついて実施された。
農業は生活の充実と精神衛生上も必要
 
サミットの3日間には、五か国から各国から3名づつの代表者が来日。現場も体験。また、さまざまな催しが開催され2万5000人が参加した。

11月29日は、記念コンサート「World JAZZ」(練馬文化センター)

11月30日は、国際会議(分科会)が行われ、「都市のおける農産物生産と販売について考える」「都市の農業を活かしたコミュニティづくり」「 都市における農を活かしたまちづくり」が、それぞれのテーマ。 また区内農地での「練馬大根引っこ抜き競技大会」を開催。

12月1日は国際会議(シンポジウム)で各国のメンバーによる「都市農業の未来を語る 私たちのくらしと社会をいかに豊かにできるか」( 練馬文化センター) などが実施された。

また農家によるマルシェや、各国の料理の提供など、区を挙げての食の農の催しが開かれた。
各国の取り組み報告は次のようにまとめられている。
■アメリカ・ニューヨーク
ニューヨークでは、「グリーンサム」というコミュニティ農園事業を行っている。1970年代の市の財政危機の際に放棄された敷地を、市民が安全で清らかな場所にするために農園をつくり始めたのがきっかけ。市内には約550の農園があり、市は資材の提供などを行い、管理はボランティアが行っている。コミュニティ農園では、教育ワークショップや利用者の交流イベントが行われている。

■イギリス・ロンドン
ロンドンでは、2006年に食糧戦略を策定。農産物の栽培を通じて、雇用確保や健康の増進、多様な人種間の理解の促進、犯罪率の低減などを目指している。また、市内のコミュニティに実践的および経済的支援を提供して、市民の食糧栽培と土地の取得を援助する「キャピタル・グロウス」という取組では、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックを契機に2012か所の農園開設を目指した。現在では、その数約2700か所まで増えている。

■インドネシア・ジャカルタ
「急激な経済成長を続けるジャカルタでは、開発により水田が激減し、気候変動や洪水の多発など深刻な問題を抱えている。市街地の路地ではポット栽培が盛ん。環境問題に負けない強靭な都市にするため、緑や農地を創出することはジャカルタの目標の一つ。

■カナダ・トロント
トロントは海外からの移民の割合が市民の約半数という多民族で構成されている都市。移民の中には地域コミュニティに溶け込むきっかけを必要としている人がいる。トロントのコミュニティファームは利用者の交流を通じて移民の孤立を防いだり、異文化の理解促進につなげるねらいがある。

■韓国・ソウル
韓国は日本より4年早く都市農業の振興に関する法律を制定。ソウルにおける都市農業は、市民が屋上や裏庭等を活用した園芸活動や週末に郊外にある市民農園で行う活動が中心。また、2012年から農地ツアーや事例発表等で構成される「ソウル都市農業万博」を開催」。

などとなっている。

「海外では住民主導で行政と連携して作っていくのが特徴。農地はあるが農家はいない。練馬区のように農家が野菜づくりを指導するのはない。ただ各国とも都市の農業は生活の充実、精神衛生にも必要というのは共通すること。そのメリットと都市の農業の魅力を世界に発信できた」(練馬区都市農業課)

素晴らし国際的取り組みとなっている。

練馬区高松にある「農の学校」

農業サポーターを育成する「農の学校」を設立・運営
 
練馬区では平成27年に、農家の援農ボランティアの育成を目指し「農の学校」(練馬区高松1丁目)を設立した。地下鉄大江戸線練馬春日町駅から徒歩10分ほどのところにある。閑静なところで隣接して区民農園がある。

「農の学校」は3700㎡。初級、中級、上級までがある。定員は各コース15名。もちあがりになっている。12月に説明会があり、区報、区のホームページから募集。年間20日間程度の講習がある。講師は練馬区の農家。受講料は年間1万円。初級コースの畑、中級コースの畑とビニールハウス、上級コースの畑、農とのふれあいコース(区民に農を体験してもらう。年2回募集。ファミリー向けのレジャーコース)の4区画がある。座学のための研修室、野菜づくりに必要な道具類も用意してある。

「農家の人手不足、後継者不足があるなかで、一般区民で農業に係りたい人が多くいます。そこで援農ボランティアの育成の学校を作りました」(練馬区都市農業課)
 学校は募集に対して3・5倍の人気。これまで112名が卒業し農家の援農をしている人が多くいる。受講期間は3月~12月。練馬区で生産されている野菜を育て、農作業に必要な知識や技術を学ぶ。
■練馬区高松にある「農の学校

講義の模様。上級コースの参加者。さまざまな職種の人が参加している。

初級コースの修了後、練馬区より「ねりま農サポーター」の認定を受ける。さらに技術を磨くために中級、上級と進むようになっている。
「ねりま農サポーター」に認定を受けると、アンケートへの回答で援農ができる時間や希望などをだしてもらい、事務局が農家と間に入り引き合わせ、農業者とサポーターが同意すれば、援農活動が始まる。

実際、卒業生から援農ボランティアの実践者が多く生まれている。種まき、植え付け、受粉・除草・摘果作業、肥培管理、出荷調整、収穫袋詰、イベント参加などなどだ。 
「農の学校」の案内
 
練馬区では、農家が野菜を直接消費者に販売するマルシェも盛んだ。

「マルシェを通して区民の皆さんには新鮮な農産物、農家さん、農業を知って欲しい。マルシェには2種類あります。ひとつは農業者さんがで構成される実行委員会と我々が協力して年1回秋に、駅前文化センター前で行うもの。月1回、年1回行うところとまちまちです。
 好評なのが、2021年から始めたのが区役所の1階の広場での農業者のマルシェ。区役所に手続きにきた人に、今まで練馬区の農業を知らなかった人に、アピールができ、区役所内で触れあいができ美味しい野菜に出会える。自分の住まいの近くに直売所がある。農地・農家を知ってもらうことが目的。農家にも好評で、評判がいいです」(都市農業課)

東京都は、農のある風景を維持していく「農の風景育成地区制度」を平成23年に創設。
 
練馬区には、高松一・二・三丁目農の風景育成地区 (平成27年6月1日指定)、南大泉三・四丁目農の風景育成地区 (令和元年12月20日指定)の2か所がある。この地区では風景を生かしたツアーが試みられ、これが人気となっている。

「2021年、南大泉で地域主体のツアーが生まれました。体験農園をされている加藤義松さんが中心となって区と連携し、地域の総意として「南大泉WITH 農 フェスタ」です。それとは別に、練馬区の観光センターと「農の魅力を再発見!ねりま観光ツアー 農の恵みと風景を 巡る 」 を 開催しました。7月に南大泉で行い好評。11月に高松で行いました」(都市農業課)

2022年の「農フェスタ」に参加した人たち

観光ツアーは定員15名。参加費2000円で、農家で収穫体験や農業の話を聞くというもの。計4回実施され、定員を上回る応募があった。
「南大泉WITH 農 フェスタ」は、11月27、28日に実施され、収穫体験、キッチンカーも出るマルシェ、農の風景写真コンテスト、こどもの農の風景絵画コンテストなどが行われ、延べ8000名近くが参加した。

農家で果樹の摘み取りができる「練馬果樹あるファーム」も区をあげて推進されている。
これも詳細なガイドがあり、ホームページからもダウンロードできる。
練馬区の農と食、農家と区民の連携ぶりはすっかり地域に溶け込んでいる。

■この原稿は『月刊NOSAI』(全国農業共済協会)2022年6月号に掲載されたものを編集部の許可を得て転載したものです)

【事務局より】

8月号で紹介した 第2回 地域と一体化したデザイン「道の駅ましこ」ですが、総務省から金丸氏に連絡があり、政策に反映したいとのことで今月中に、地域資源活用あるいは地域住民のまちづくり意識の醸成といった観点から、同施設の果たす役割であったり、今後の展望などヒアリングが実施されるとのことです。