「サイロになかにバネみたいな羽があります(スクリューコンベア)。チップがどっさり入っているときはバネも縮こまっていてコンパクトです。チップがだんだんなくなっていくとバネが広がり周りのチップを掻き寄せることができる。この搬送機とボイラーはオーストリア製です」と徳田さん。

木質チップを蓄えるサイロ。下にバネ状のスクリューがある。

設置された2台のボイラー。左端下にあるのが1か月で燃焼した灰を入れた袋。

サイロの隣にボイラー室がありオレンジ色をしたボイラーが2台。その周りに配管がある。

「さっき見ていたサイロが外側にある。スクリューで回っていたチップがボイラー室に繋がっている。この中にもスクリューが入っていてぐるぐる回り、この丸い所にカッターがあってチップの長いものは細かくして燃えるようになっている。見てわかるようにバーナーで燃やしているわけではなくボイラー内でゆっくり燃えている。だから機器の寿命も長い」

ボイラーというと燃料を人がくべているのかと思いきや、燃料が自動で送りこまれ、それもボイラー内で自動的に燃えていて、外部には火や燃焼の様子は、まったく見えない。ボイラーの横には細い円筒がついていて煙を出すようになっている。外に突き出している煙突を外側に出てみて見ると煙もでていない。かげろうのようなものが少し出ているだけだ。

「ボイラーから出る灰を山林に撒こうとしたのですがほとんど出ない。一ケ月40リューベのチップを燃しても一袋。自動で溜まる。一年使っても軽トラック一台もならない」
事業費は約6000万円。チップ庫や 建屋も含まれる。 ボイラーは二台で約1000万円とのこと。

ボイラー室の外観と外に出ている煙突。煙がまったく出ていない。

管理はスマートフォンできるようになっている。
「ボイラー横のパネルの画面で管理している。この画面が担当者のスマホに届く。今温度が何度で稼働しているのか全部分かる。スケジュール管理もできる。何かあればアラートが行く。例えば、かなり大きいチップでカッティングができないというような場合とか。それでも年に一回か二回程度です」

ボイラー横にある管理パネル。スマートフォンと連動している

ボイラー内の燃焼の様子

湯はボイラーで直接沸かすではなく、パイプで送られてきた水を温めて蓄えたお湯と温度置換する仕組み。

「蓄熱槽がボイラーの向こう側に3tの水が入っている。蓄熱槽の温度は81°~82°になるようボイラーの強弱をコントロールしてる。ここから熱交換をしてお湯を作る。使うのはお風呂。向こうから配管が二本きていて81°のお湯になるように循環している。熱槽の裏側に青いのが見えますが、それが熱交換器。水道から来ている水を熱交換器を通してお湯を溜めお風呂場に行く。ここには冷たい水が常に補充される。水路とボイラーの間をくるくる回り熱交換器を挟んで貯槽そうと水道とお風呂がつながっている」

ボイラー室内の配管

貯湯槽

灯油燃料費用の激減と二酸化炭素削減に繋がる
 
既存の燃料ボイラーは設置後40年が経過していた。灯油燃料で燃料費は年間450万円。それが新しくすることで燃料費が約300万円削減されることとなった。
 
また110t/年のCO2を輩出していたが、バイオマスボイラーにすることですべてのCO2排出を抑制できることとなった。これは12,500本分の成木吸収に匹敵する。

「森の木は枯れて倒れて腐って土に返る時にCO2(二酸化炭素)を吐き出してしまう。その前に木々をエネルギーに換える。木は光合成で二酸化炭素を体内に取り込んでO2(酸素)を吐き出す。だから環境にも貢献する」
木質バイオマスの導入には国庫補助事業も使われた。環境省再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業のうち第6号事業「再生可能エネルギー事業者支援事業費」に応募して採択された。さらに地方公共団体との連携がされたこと、地域への普及・拡大を効果的に進める計画がされているとのことから評価を受けて補助率3分の2(29,460、000円)を活用できることとなった。
 
地域連携にあたっては長野県林務部と打ち合わせを重ねて森林経営計画が練られた。当時、長野県林野部との橋渡しをしたのは県会議員・今井敦さん。現在の茅野市長だ。
 補助を取れる要件は行政との協業と地域の波及効果だった。そこで「茅野市鹿山地区もりぐらし推進協議会」を、茅野市、地元の住民、環境業界と一緒に作ることとなる。団体が生まれたことで茅野市の推薦も受け地域への波及効果があるということで補助を受けることができた。

もりぐらし 地域と育む 森林保全と バイオマス利活用
 
「補助金は6000万円の2/3をもらえるわけではなく、対象外の建屋とかありますので約3000万円。つまり約3000万円は、こちらが出資することとなる。しかし年間300万円の燃料費の削減によって10年で投資回収ができる。バイオマス燃料は補助金も使い間伐もしているので材料費はカウントしないでチップ化する手間代だけになる」

さらなる木質バイオマスボイラー導入の利点を徳田さんは、次のように語る。
「以前の灯油ボイラーのときは運転したり止めたり温度調整をしたしていた。今はそれもいらない。すべてのコントロールが自動制御。最初バイオマスボイラーを入れようとした時は、ゴルフ場では大反対でした。石炭みたいに薪をくべなきゃいけないんじゃないかと。そんな手間をかけられないよと言っていたんです(笑)。 よく見れば全然洗練されたものだった」

チップを入れる箱。これをトラックに積みボイラー室横のサイロに運ぶ

では、燃料となるチップは、どのように得られているのか。

森林組合で森の間伐が行われる。資材置き場に丸太で運ぶ。丸太は半年間置いておくと乾燥し水分量が減る。それを千葉県からきた業者がグラップル(搬出・チッパーへの投入・ウインチ)付きフォワーダ(運搬車)で、車上でチップ化しトラック運搬用の大きなチップ箱に詰めて置いておく。チップ箱をトラックに箱ごと積み、それをボイラー施設横のサイロに運び燃料チップとして投入する。作業は月に1回程度だ。
「間伐計画は年間十ヘクタール。森林組合が手掛ける作業に1000万円ぐらいかかったとしても素材の販売と補助金で1000万貰うからほぼペイする。製材所に売れたものが300万円。それに補助金が700万円。東急への請求は無し。そのような感じです」

チップ化にはトラック搭載のチッパーを持つ千葉の業者が月一回蓼科に来ている。

「 2019年、千葉の台風災害(台風15号)がありました。会社の千葉県内のゴルフ場も倒木が激しかった。倒木した木々を自前で粉砕しコースに撒けば再利用ができる。会社に説明し地場の業者にチッパー搭載のトラックを購入していただいた。クレーンと砕く機械もついている。費用は約4000万円。千葉の方でも木材チップの再利用を行い月に一回は蓼科に来てもらう」(徳田さん) 

チッパー付きのトラックがあれば作業が簡素化される。最初リサーチしたときは、海外のものしか見当たらなかった。見積を取ると費用は約1億円。海外で作り日本に運ぶまで2年待ち。トラックの購入費に加え搬送費用もかかる。そんななか山形県でデモンストレーション用のチッパー付きトラックがあることが分かった。そこで山形県まででかけ、国内機が導入されることになる。

「蓼科の660ヘクタールの木の一年間に増える分を利用する。年間で840リューベ大きくなる。その部分をマックスとして伐る。毎年伐っても全体の木のボリュームは変わらない。燃料で使うのは1/3ほど。あとは製材に売っている。カラマツの場合、以前は木材に狂いが生じるのであまり好まれていなかったのですがCLTで使われる。CLTだとカラマツだと逆に強度が出るということで需要が多くありました。上質のA材は製材に、材木で使えないものは木質バイオマスにという仕組みです」

CLT(Cross Laminated Timber=直交集成板)。欧州で開発された技法で、板の層の繊維方向を交互に張り合わせることで強度を造る厚型のパネル。さまざまな建築物に利用され、現在、輸入木材の高騰、地域資源の活用などから注目が集まり需要が急増している。
きっかけは集中豪雨の土砂災害からだった
 
木質バイオマスボイラー導入のきっかけは燃料費の削減かと思いきや、実は集中豪雨の土砂災害からだった。2012年に大型台風が発生。「東急リゾートタウン蓼科」内だけで20箇所の土砂災害が起こり、法面崩落(のりめんほうらく)となった。

「森林関係の方々に話を聞いていくと森が弱っていると言われた。そこから考え始めました。ここは戦後植林したカラマツの人工林。別荘地となって40年です」

リゾートタウン蓼科660haの経緯を見ると、別荘地(2414区画)とゴルフ場(18ホール)の開業が1978年。ホテル(78室)開業が1981年、スキー場開業(1リフト)が1982年。さらにホテルが1988年(90室)、1999年(55室)ができている。

「60年間、森は全くの手付かず。植えっぱなしの人工林だった。間引きもされていない。密度も混んでいる。成長が妨げられている。鬱蒼として暗い。管理されている森は綺麗。日の光が差し込んで下草が生え水を蓄える力も強くて土砂の流出がしづらい。調べると、蓼科のように分譲している別荘地であっても、森林経営計画を立てれば補助事業が使えるということがわかった。そこで、森林組合と森林経営計画を立て、毎年の樹木の成長量・総量を上限に間伐計画を立てることを始めた。間伐して出てきた木材をいかに有効に使うか。それが森林に価値をつける手段だと思うんです」(徳田さん)

土砂災害のあった2012年は、まだ全体の状況が把握できず、徳田さんは土砂災害の対策を担当し土留めの堰堤を作ったり排水設備を作ったりと対策に追われていた。

本格的に動き始めたのは2015年。世界の環境施策の高まりから会社内でも機運が生まれた。

「会社はリゾートを運営し自然と共生している。自然を生かした政策がなにかできないかという話があった。私たち東急不動産ホールディングスが縁と繋ぐプロジェクトがあり、そこに「守る・使う・繋ぐ」の循環という考えがあった。売れたマンションの平米数の森林を守っていくみたいな取り決めを、岡山県西粟倉村(森林活用で知られる自治体)と組んでやっている。この循環が面白いと「守る・使う・繋ぐ」のコンセプトを蓼科の森林を守り次世代に繋ぐに取り入れ、2016年に決めた」
地域を連携して循環型社会を創る構想を推進
 
徳田さんは森林の有効活用から木質ボイラーの利用を考えリサーチを始めた。当初は手探り状態。調べているうちに一般社団法人徳島地域エネルギーのホームページにたどり着く。徳島に飛んだ。

一般社団法人徳島地域エネルギー

「50キロの地域アライアンスを組んで地域循環共生圏を作っていくというそのコンセプトに惚れた。そのなかにボイラーの普及があった。広い範囲で森林保全もセットにした方が、より森が健康になるという考えがあった」(徳田さん)

徳島地域エネルギーが扱っていたのが木質バイオマスの利用としての高性能ボイラーETA社製(オーストリア)だった。
ボイラー導入前に2016年「もりぐらし」という構想が生まれた。「 守る・使う・繋ぐ」の、「繋ぐ」の部分を先に手掛ける。森の魅力を知ってもらおうと森林サービス産業の具体化を手がけ、タウン内に「もりぐらしエリア」を2017年に開業させた。バーベキュー、グランピング、フォレストアドベンチャー(アウトドア・パーク)、アスレチックなどが生まれた。

森内に作られたバーベキューハウス

フォレストアドベンチャー

「泊まるの部分が面白い。クラフベッソという住宅展示場。 泊まることができる。住宅というよりも今時の別荘。金額も千何100万とそんなに高くない。住宅展示場なので地元の工務店とかビルダーが立てるのです。私たちは場所とインフラを提供する。5軒がある。私たちディベロッパーとしては初期投資としてすごく安くすむ。お客さんは別荘に泊まり体験することで購買に繋いでいただく。あるいは高齢化している周辺の既存の別荘のオーナーさんたちの代替わりをスムーズに繋げていく。こういう別荘だったらいいんじゃないのっていう提案をしたかったんです」(徳田さん)

クラフベッソ住宅展示場

「Jークレジット」の申請も行われた。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度。これを他の企業が購入することで二酸化炭素排出をバーターする仕組みだ。

「脱炭素の取り組みを今後地域に広げていきたい。ここには財産区林(市町村合併前の範囲で所有している森林)が多い。まずは、そこに話をもっていこうかなと思っています。「もりくらし」の構想を周辺の別荘地、三井物産、鹿島建設もある。連携し進行させていく。 将来は茅野の森林だけではなく近隣六市町村までを見据え全体で協定を結びたい。バイオマスの利活用ということでは、ほかの自治体も手を握れるところだと思うからです。生物多様性の保全にも繋ぎたい」

小さなところからコツコツと実績を積み上げ、形にしていきたいと抱負を語る徳田さん。
森林の計画、間伐から燃料供給、補助金の申請、ボイラーの設置、管理運営などワンストップで政策ができるセンターの構想がある。現在、森林組合と地区の人たちと立ち上げ、それを周辺の市町村に広げることが進行中だ。

また木質バイオマスボイラーの導入は、今度は、千葉県の方でも進める予定となっている。というのは、千葉市に木材チップを製造できる㈱グリーンアースがすでに実績をもっているからだ。この取り組みは「月刊NOSAI」(農業共済協会)2022年9月号と「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」メールマガジン「月刊メルマガ」2023年10月号で特集している。

㈱グリーンアース
千葉市との連携事業で、市の家々から出る庭木の剪定枝、街路樹・公園の剪定枝、土木事業ででる木材などを、すべて回収して木質チップに変換できる仕組みが作られている。その会社㈱グリーンアースと行政と連携できれば、安定的に木質バイオマスのエネルギー供給ができるというわけだ。

まずは「東急リゾーツ&ステイ株式会社」の千葉県内の3つのゴルフ場での取り組みが検討されている。
「千葉と同じようなプラントを東京や横浜に作れば、公園や街路樹から出る剪定枝が都内のホテルの燃料になる。とても面白い。 23区内でも相当のバイオマスエネルギーは取れると思います」と徳田さん。今後の各地の森林の保全と燃料供給、循環型の新しいう動きが注目される。
東急リゾートタウン蓼科
東急リゾーツ&ステイ株式会社

この原稿は、「月刊NOSAI」(全国農業共済協会)2022年11月号に掲載されたものです。編集部の許可を得て転載するものです。