概要をまとめると次のようになる。
高度成長期急激な人口増加に伴う無秩序な開発で農地や山林が激減した。昭和43年、開発に伴う公共・公益施設整備に要する費用の一部を開発業者が負担する「横浜市宅地開発要綱」が策定。昭和44年、新都市計画法による、市街化区域と市街化調整区域(農林業との調和を図る地域)の線引きが行われる。
この中、「港北ニュータウン建設事業」が進められ、「都市農業の確立」が提言され実現。「港北ニュータウン地域内農業対策要綱」が制定され、230haの農地が保全されることとなった。この要綱で、公共性が高く個別農家では実施不可能な土地基盤整備に関する事業は100%助成され、井戸水も整備もされて、農業ができる環境が生まれた。
その後、対象地域を市域全体に拡大。「横浜市農業専用地区設定要綱」が昭和46年に制定。市街化調整区域に位置するおおむね20ha以上のまとまりのある農地のある地域で、農業専用地区指定の推進が行われる。
現在は28地区、1、071haが指定されている。
横浜市都筑区の農業専用地区 出典:Google Earth(Image©2024 Airbus)
労働力不足から青壮年部の参加数が激減
この農業専用地区で、JA横浜青壮年部都田支部は、さまざまな地域連携事業をおこなってきた。
そのなかの一つが、サツマイモボランティアだ。発起人はライオンズクラブ。芋ほり体験、外のグランドでの体験発表、バザーなども行われ2000名近くが参加していた。しかし、収穫体験の季節が秋ため、台風の影響でイベントが中止になることもたびたびあった。テントの設営もあり費用が嵩み、外部の大がかりなイベントは取りやめとなった。
その中で芋ほりのイベントは青壮年部が請け負い、福祉農園という形で今も続けている。参加者は250組。障害者とその家族を招き、参加費200円で2株を抜くというものだ。
福祉農園は、実行委員会を立ち上げ、横浜市の福祉協議会とライオンズクラブとともに青壮年部が運営している。青壮年部はボランティアで作業。芋掘りのイベントは10月の3週か4週に半日かけて行われれる。
この農業専用地区で、JA横浜青壮年部都田支部は、さまざまな地域連携事業をおこなってきた。
そのなかの一つが、サツマイモボランティアだ。発起人はライオンズクラブ。芋ほり体験、外のグランドでの体験発表、バザーなども行われ2000名近くが参加していた。しかし、収穫体験の季節が秋ため、台風の影響でイベントが中止になることもたびたびあった。テントの設営もあり費用が嵩み、外部の大がかりなイベントは取りやめとなった。
その中で芋ほりのイベントは青壮年部が請け負い、福祉農園という形で今も続けている。参加者は250組。障害者とその家族を招き、参加費200円で2株を抜くというものだ。
福祉農園は、実行委員会を立ち上げ、横浜市の福祉協議会とライオンズクラブとともに青壮年部が運営している。青壮年部はボランティアで作業。芋掘りのイベントは10月の3週か4週に半日かけて行われれる。
都筑区では、さまざまな市民との交流の場がある
サツマイモの収穫作業
しかし、その後、100名以上いた青壮年部は26名に減ってしまった。家族が一人でも欠けると農業が維持できず、青壮年部の活動までは手が回らないためだ。
まずは小さくとも実践で試みる
そんな中、JAグループの株式会社農協観光から新規事業として農福連携を立ち上げたいと計画が持ち上がった。背景の一つにコロナで厳しい状況があった。こうして4年前に取り組みが始まった。
JA横浜青壮年部都田支部の会議で、「福祉事務所の利用者さんは体力的に農作業ができるの?」「多品目栽培の対応は難しくない?」「そもそも委託料はどれくらいかかる?」などの声があり、最初は賛同が得られなかった。そもそも、農福連携という知識もないところからのスタートだったため無理もない。
しかし、「まずはやってみては」との声から、相談にいったのが地域活動ホームくさぶえの堀内哲也さんだった。
「うちだけではなく同業者のネットワーク、任意団体があるんです。そこの人に声をかけた」と堀内さん。
最初は農家5人、福祉事業所から2人による話し合いの場だった。
堀内さんからは「一般就労向けの体力づくり」「社会勉強」「農業をやってみたい」というニーズがあること。そして「今まで受けている内職もあるので短期雇用でも大丈夫」「叱られることや褒められることが、本人にとって社会勉強になるから特別扱いはしないでくださいね」と話されたとは、農家の長谷川裕章さん。。まずはやってみようと田丸秀昭さんの畑での実践が始まった。
そんな中、JAグループの株式会社農協観光から新規事業として農福連携を立ち上げたいと計画が持ち上がった。背景の一つにコロナで厳しい状況があった。こうして4年前に取り組みが始まった。
JA横浜青壮年部都田支部の会議で、「福祉事務所の利用者さんは体力的に農作業ができるの?」「多品目栽培の対応は難しくない?」「そもそも委託料はどれくらいかかる?」などの声があり、最初は賛同が得られなかった。そもそも、農福連携という知識もないところからのスタートだったため無理もない。
しかし、「まずはやってみては」との声から、相談にいったのが地域活動ホームくさぶえの堀内哲也さんだった。
「うちだけではなく同業者のネットワーク、任意団体があるんです。そこの人に声をかけた」と堀内さん。
最初は農家5人、福祉事業所から2人による話し合いの場だった。
堀内さんからは「一般就労向けの体力づくり」「社会勉強」「農業をやってみたい」というニーズがあること。そして「今まで受けている内職もあるので短期雇用でも大丈夫」「叱られることや褒められることが、本人にとって社会勉強になるから特別扱いはしないでくださいね」と話されたとは、農家の長谷川裕章さん。。まずはやってみようと田丸秀昭さんの畑での実践が始まった。
体力づくりや農業を学びたいというニーズがあった
「玉ねぎから始まりました。収穫したり出荷調整したり。新玉ねぎなので、全部、手で抜かないといけない。それを籠にいれてもらう。根っこと葉っぱを切って出荷しないといけない。それができるかなと。最初はイベントを開いてくれて、障害者の方がきてくれました」と田丸さん。
「事業所のネットワーク呼びかけて、4、5事業者の30名ほどが来ました。これならできそうだと思いました」と堀内さん。作業は順調ではかどった。
田丸さんは嬉しそうに話す。
「そこからほかの仕事もできるかなと思い、堆肥を撒いてもらいました。2トントラックでどさっと降ろした堆肥の山をスコップで入れてもらいました」
使われるのは牛糞堆肥。横浜市戸塚区上倉田町にある株式会社小野ファームが作ったもの。神奈川県下で屈指の規模を誇る小野ファームは、肉牛約400頭、乳牛約50頭を飼育し、カフェやアイスクリーム工房の運営や堆肥の生産販売も行っている。
うまくいかなかった作業もある。
「玉ねぎの出荷調整をお願いしました。畑で収穫したものを福祉事務所に運んでもらって、事業所で葉と根を切って箱に入れて戻してもらうということもやりました。しかし、ごみの量が多すぎて、福祉事務所内での作業としては、あまりうまくいきませんでした」と田丸さん。
「事業所のネットワーク呼びかけて、4、5事業者の30名ほどが来ました。これならできそうだと思いました」と堀内さん。作業は順調ではかどった。
田丸さんは嬉しそうに話す。
「そこからほかの仕事もできるかなと思い、堆肥を撒いてもらいました。2トントラックでどさっと降ろした堆肥の山をスコップで入れてもらいました」
使われるのは牛糞堆肥。横浜市戸塚区上倉田町にある株式会社小野ファームが作ったもの。神奈川県下で屈指の規模を誇る小野ファームは、肉牛約400頭、乳牛約50頭を飼育し、カフェやアイスクリーム工房の運営や堆肥の生産販売も行っている。
うまくいかなかった作業もある。
「玉ねぎの出荷調整をお願いしました。畑で収穫したものを福祉事務所に運んでもらって、事業所で葉と根を切って箱に入れて戻してもらうということもやりました。しかし、ごみの量が多すぎて、福祉事務所内での作業としては、あまりうまくいきませんでした」と田丸さん。
芋畑での除草作業
作業工程と賃金策定表を見える化
「実際にやった作業内容を見て、やれそうだということで提案し、みんなに知ってもらいました。しかしその後、実際のところできるのかという話になりました。それならば都田支部として試しにやってみようかと。そこから枝豆を栽培してみました。
5月に農福連携ができるとなりました。この先なにをやってもらうかと5月に会議をした結果、枝豆はできそうだ。間に合いそうだねとなった。福祉事業所へ行って、枝豆を作りたいです。よろしくお願いいたしますと言ったのが6月くらい」と田丸さん。
福祉事務所では、作業療法師に話をきいてもらい、現場にきてもらった。
「肥料散布から始め、トラクターで耕耘。僕たちが主導で行いました。畑での一連の作業を見てもらいたかったので、これをやったことで、できること、できないことが、改めてわかりました」と田丸さん。
「福祉側に作業療法師がいて、福祉の側で作業を指導するノウハウがあると聞いたので、それを農作業で活用するために、作業療法師と職員さんに現場に来てもらいました」と堀内さん。
そこから農家で、作業工程や賃金算定表を作った。
田丸さんは、次のように話す。
「マルチを張ったり、ネットを張ったり、一連の作業をまずみてもらって体験してもらって、どこができるか、どこができないか。福祉事業所のスタッフも含めて10人くらい来ていただきました。そのとき動画を撮ったり、写真を撮ったりしました。今後、福祉事業所に持ち帰ったときに、福祉事業者の職員さんにこういう作業があるよと見せると分かりやすいのではないかとアドバイスをもらいました。
種を蒔いてくださいといっても言葉ではなかなか伝わりません。それを写真にしたり動画にしたり、これぐらいの深さまでとか、こう蒔いてくれとしたほうが、より分かりやすい。その取説をみんなで考えて作り、枝豆でベースができました。全ての作業の数値化することによって、作業委託料設定のためのデータをとりました。依頼の形を模索しながら、工賃算定表を作成しました」
「実際にやった作業内容を見て、やれそうだということで提案し、みんなに知ってもらいました。しかしその後、実際のところできるのかという話になりました。それならば都田支部として試しにやってみようかと。そこから枝豆を栽培してみました。
5月に農福連携ができるとなりました。この先なにをやってもらうかと5月に会議をした結果、枝豆はできそうだ。間に合いそうだねとなった。福祉事業所へ行って、枝豆を作りたいです。よろしくお願いいたしますと言ったのが6月くらい」と田丸さん。
福祉事務所では、作業療法師に話をきいてもらい、現場にきてもらった。
「肥料散布から始め、トラクターで耕耘。僕たちが主導で行いました。畑での一連の作業を見てもらいたかったので、これをやったことで、できること、できないことが、改めてわかりました」と田丸さん。
「福祉側に作業療法師がいて、福祉の側で作業を指導するノウハウがあると聞いたので、それを農作業で活用するために、作業療法師と職員さんに現場に来てもらいました」と堀内さん。
そこから農家で、作業工程や賃金算定表を作った。
田丸さんは、次のように話す。
「マルチを張ったり、ネットを張ったり、一連の作業をまずみてもらって体験してもらって、どこができるか、どこができないか。福祉事業所のスタッフも含めて10人くらい来ていただきました。そのとき動画を撮ったり、写真を撮ったりしました。今後、福祉事業所に持ち帰ったときに、福祉事業者の職員さんにこういう作業があるよと見せると分かりやすいのではないかとアドバイスをもらいました。
種を蒔いてくださいといっても言葉ではなかなか伝わりません。それを写真にしたり動画にしたり、これぐらいの深さまでとか、こう蒔いてくれとしたほうが、より分かりやすい。その取説をみんなで考えて作り、枝豆でベースができました。全ての作業の数値化することによって、作業委託料設定のためのデータをとりました。依頼の形を模索しながら、工賃算定表を作成しました」
農作業は障害のある方々へ喜びにもつながった
指導するサポーターや作業道具の充実にまで発展
仕事をやってもらえそうだということで提案をまとめ、都田支部メンバーに周知することとなった。
「僕ら福祉事務所と仕事がうまくやれないか、支部の26名へどうやって説明するのか、それも経営者の視点で、農福連携ができ、障害者の人たちが畑にまできて仕事ができる。こういうメリットがあると訴えた方がいいよねと試行錯誤でした」と田丸さん。
100平米の作業を割り出し、それを自分の事業に拡大して当てはめる。経営規模に当てはまるのではなかと算式を出し、1時間あたりの最低賃金へ割り振った。
例えば、堆肥散布の場合、1アールに10分かかる。1時間で6アールできる。最低賃金が1162円。それぞれの作業を1アール単位の計算ができるというので、依頼するときの指標の取説ができた。
しかし、実際にやっていくうちに新たな課題が生まれた。作業を依頼する農家側からは「指示内容を理解してもらえない」「もっとたくさんの人にきてほしい」「障害者の使う道具が足りない」「作業効率が悪い」「目が離せない」など。参加する福祉事務所と障害者側からは、「専門用語が分からない」「雑草と野菜の区別がつかない」「道具の使い方がわからない」「圃場に行くための車がない」「トイレがないと困る」などだ。
それからJA横浜青壮年部が全員集まり、JA横浜へサポーター向けの講習をしてほしいと要請した。
仕事をやってもらえそうだということで提案をまとめ、都田支部メンバーに周知することとなった。
「僕ら福祉事務所と仕事がうまくやれないか、支部の26名へどうやって説明するのか、それも経営者の視点で、農福連携ができ、障害者の人たちが畑にまできて仕事ができる。こういうメリットがあると訴えた方がいいよねと試行錯誤でした」と田丸さん。
100平米の作業を割り出し、それを自分の事業に拡大して当てはめる。経営規模に当てはまるのではなかと算式を出し、1時間あたりの最低賃金へ割り振った。
例えば、堆肥散布の場合、1アールに10分かかる。1時間で6アールできる。最低賃金が1162円。それぞれの作業を1アール単位の計算ができるというので、依頼するときの指標の取説ができた。
しかし、実際にやっていくうちに新たな課題が生まれた。作業を依頼する農家側からは「指示内容を理解してもらえない」「もっとたくさんの人にきてほしい」「障害者の使う道具が足りない」「作業効率が悪い」「目が離せない」など。参加する福祉事務所と障害者側からは、「専門用語が分からない」「雑草と野菜の区別がつかない」「道具の使い方がわからない」「圃場に行くための車がない」「トイレがないと困る」などだ。
それからJA横浜青壮年部が全員集まり、JA横浜へサポーター向けの講習をしてほしいと要請した。
サポーターの講習プログラムと活動認知の取り組み
そして、最初に農福連携の提案をした農協観光に実施してもらい、職員15名ほどが参加して、2024年から1年を通じて10回にわたり講座と実習という形で行われることとなった。というのは、サポーターいるのだが、現場で指導をするとなると、具体的な手順や作業を、より細やかに学んで、相手にわかってもらわないと作業がスムースに行かないということが分かったからだ。
JA横浜では、より多くの人にも活動を知ってもらうためにロゴマークやシール、旗が作られ、横浜市庁舎での直売で農福連携のブースも設置された。
次に市にも農福連携への協力を提案。市議会を通じ市や区の職員と検討会が行われ、農作業受注促進モデル事業として予算が付き、環境創造局(農政部)、健康福祉局(福祉保健課)が連携し支援することとなった。また、地元都筑区は区政30週年特別予算により、障害のある人たちが使用する資材調達の補助金が付き、福祉事業所に長靴や袋詰めの器具、幟、ハサミ、軍手、雨具などが備わった。
これらの連携で、農家と福祉事務所により遊休地が蘇り、販売のルートも広がった。農業の支援が福祉事務所と密接なつながり、消費者との新たな接点も生まれた。そして活動から荘青年部のOBが新た参加。26名が27名にもなった。
JA横浜では、より多くの人にも活動を知ってもらうためにロゴマークやシール、旗が作られ、横浜市庁舎での直売で農福連携のブースも設置された。
次に市にも農福連携への協力を提案。市議会を通じ市や区の職員と検討会が行われ、農作業受注促進モデル事業として予算が付き、環境創造局(農政部)、健康福祉局(福祉保健課)が連携し支援することとなった。また、地元都筑区は区政30週年特別予算により、障害のある人たちが使用する資材調達の補助金が付き、福祉事業所に長靴や袋詰めの器具、幟、ハサミ、軍手、雨具などが備わった。
これらの連携で、農家と福祉事務所により遊休地が蘇り、販売のルートも広がった。農業の支援が福祉事務所と密接なつながり、消費者との新たな接点も生まれた。そして活動から荘青年部のOBが新た参加。26名が27名にもなった。
作業道具購入の補助が付き仕事がはかどるようになる
JAの支援で生まれた「農と食のマルシェ」
地区長も現地視察に訪れた
(註)
農福連携は国の推進事業となっています。(農林水産省)
■農福連携の推進
都市農業は「 都市農業振興基本法」があり重要な位置づけとなっています。
■都市農業振興基本法のあらまし(国土交通省)
■都市農業の振興・市民農園について(農林水産省)
●この記事は『月刊NOSAI』(全国農業共済協会)2025年7月号「農と食で高める地域の力」より、編集部の許可を得て転載するものです。
●写真提供」JA横浜青壮年部都田支部
●福祉事業所「てつなぎつづき」の野々垣睦美さんのロングインタビューは、WANウーメンズアクションネット(上野千鶴子理事長)の「金丸弘美のニッポンはおいしい!」で配信されています。
「 農業を体験することから障害のある人たちに生きがいを引き出すことができる」 野々垣睦美さん
農福連携は国の推進事業となっています。(農林水産省)
■農福連携の推進
都市農業は「 都市農業振興基本法」があり重要な位置づけとなっています。
■都市農業振興基本法のあらまし(国土交通省)
■都市農業の振興・市民農園について(農林水産省)
●この記事は『月刊NOSAI』(全国農業共済協会)2025年7月号「農と食で高める地域の力」より、編集部の許可を得て転載するものです。
●写真提供」JA横浜青壮年部都田支部
●福祉事業所「てつなぎつづき」の野々垣睦美さんのロングインタビューは、WANウーメンズアクションネット(上野千鶴子理事長)の「金丸弘美のニッポンはおいしい!」で配信されています。
「 農業を体験することから障害のある人たちに生きがいを引き出すことができる」 野々垣睦美さん