目的は明確にあって、アグリツーリズム(農村観光)と、地域の特産品であるバルサミコ酢、ワイン、生ハム、チーズなどの工房の探訪、それにGI(Geographical Indication=地理的表示)や農業、オステリア(osteria=料理店)などの連携を視察するというものだ。
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生ハム工房(左)
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パルメジャーノレッジャーノ工房(右)
今回の旅を組んだのは、静岡県浜松市の国産素材でソースを製造販売するトリイソース鳥居大資さんと、群馬県下仁田で国産大豆で納豆を製造販売している下仁田納豆の南都隆道さんのリクエストもあったことからだった。鳥居さんを取材したときに、イタリアのアグリツーリズムのことを話したらしいのだが、それを聞きつけた南都さんから「ぜひイタリアへ案内してほしい」という連絡があり、お二人の希望も入れながら旅の日程を調整していただいた。
旅行の手配は、岡田奈穂子さん(株式会社Table a Cloth代表取締役(CEO) )にお願いした。岡田さんは、世界40か国160都市に行かれていて、個人旅行のコーディネートをされている。フランスやイタリアのアグリツーリズムの現地の宿泊施設もよくご存知。
事前に岡崎啓子さんと岡田奈穂子さんと、鳥居さん、南都さんとZOOMで打ち合わせを行い、そこから日程が組まれた。旅行前に岡田さんから送られてきた「旅行スケジュール」が素晴らしい。1日ごとの訪ねる場所が一覧になっていて、どんなところで、どんな学びの場なのか、1冊のファィルが作成されて、現地の様子と地図とが写真入りで入っているというもの。つまり、現地に行く前に予習ができる内容になっている。
旅は成田空港からエティハド航空でアブダビ空港経由でミラノへ向かった。空港では、岡田さんと、彼女が手配してくださったワゴン車の運転手さんが待っていてくださり、そこから、現地へと赴いた。まず1日目は、自然農法で野菜類を栽培する若手農家の圃場見学から始まり、アグリツーリズムのレストランでの食事、ワイナリー見学、アグリツーリズムの宿泊。2日目は、畜産から循環型の資源の取組、クラフトビール施設と続き、3日目は加工野菜工房、バルサミコ酢、4日目は、パルメジャーノレッジャーノ、パルマハム、5日目は、トリノの食品店イータリーで、販売されている食材の背景から紹介する店内案内があり、ランチをいただくというもの。
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訪問場所 ll Filo di Salice。
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福岡正信さんの自然農法を取り入れた活動
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有機ワイナリーCantine Lurettaの訪問
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素材の背景のストーリーがしっかり把握されていて、ここしかない食が明確に語られる。それらが、地域にあるオステリア(食事ができる現地のお店)やアグリツーリズムの食事にも連動している。美味しさが、背景から素材から作り手までが、わかるというこまやかな手配で、すべてが学びの深いものとなった。イタリアの食が、観光に繋がり、多くの人を惹きつけているというのがよくわかる。ひとつひとつ、どれをとってもクオリティの高いものだった。
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1日目の昼食アグリツーリズムのレストランBosco Gerolo
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宿泊は、アグリツーリズムを手配していただいた。泊まったのは2か所。それと1か所は、代表の方に、これまでの取組の経緯を紹介していただいた。
アグリツーリズムの宿泊の施設がどれも素晴らしい。クオリティが高い。3か所ともレストラン、プール、BBQ、ホールまでもがあり、庭園も広く、優雅に過ごせる施設となっている。宿泊の部屋は、ダブルベッド、シャワー、トイレも、それぞれがあり、快適な空間が整備されている。
イタリアの岡崎啓子さんが、仲間と、今度、子ども連れてどこに行くと、アグリツーリズムをよく利用するという理由がよくわかる。
泊まった1軒目は、郊外のAgriturismo La Coranina(ラ・コラリーナ)。古い建物を活かし入口から入ると右手に大きなダイニング。正面はエレベーターもあり2階3階が宿泊施設。部屋は11室。入口の左手奥が広い調理室となっている。庭にはBBQができる場所やプールもある。別棟の建物は、天井も高く椅子が並び、会合や結婚式もできる仕様。屋根裏部屋に続く螺旋階段があり、息子さんたちがDIYで改装されているとのことだった。
敷地は、葡萄畑が8haに、バラ園・人口の池と公園のような緑地が4ha。果樹園が2ha。
ここの建物と土地は、ルチーア夫妻が、息子さんに将来住む家を探していて、気に入り、2019年に購入した。もともとアグリツーリズムで倒産し10年近く空き家だった。町から現在の地に移り住み暮らすようになった。
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部屋の外観と入口。庭にはプールもあるという豪華さ。
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宿泊施設の入り口(左)
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アグリツーリズムに続く道(右)
ルチアーノさんは元郵便局勤務。夫のブルーノさんご自身は事故があり、体が不自由になってしまって、国のレベルの、身体障害がある方たちの、サポートをする組織のボランティをやっていた。
購入額は60万ユーロ。資金は自分たちの貯金。郵便局の退職金。相続したものと家族親戚にヘルプしてもらったもの。あと借り入れをした。
今回の取材でわかったのは、アグリツーリズムを開業するには、資金も多く必要だが、そのための補助もあること。そして、資格を取得すための授業を受けなければならないということ。起業のための学びの場があると知った。
まず、アグリツーリズムを運営するには農業法人が条件。運営のための講座も受けねばならない。
ルチアーノさんによると、農業法人とアグリツーリズムのコースは、どちらも農業連盟のような組織があり、そこが開催するレッスンを1週間に2回、約6カ月受けた。
農業法人の方は、受講料700ユーロ。土地権利、栽培品目、法的な部分、化学薬品など、どうやって使うかとか。実践的なものでトラクターの運転とか含まれている。
アグリツーリズムは、受講料1000ユーロ。国の定義や法律があり州ごとに規則がきめられている。それに関する勉強、衛生管理法、シェフを呼んでの栄養学とかのコース。弁護士さんの法律と使える補助金関係やお金の面での授業もあったとのこと。
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ルチアーノさんのアグリツーリズムの別棟には、ホールやラウンジまでがあった。
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そして2軒目に泊まったのが、エミリアロマニャ州フィオレンツオーラにあるバッティブーエ(Agriturismo Battibue)。
丘陵地にあるのだが、周辺はよく手入れされた樹木があり田園地帯となっていて、まるで公園のようだ。サイトを観ると、部屋の様子や調度品などが紹介されている。 ベビーベッド付き部屋もあり、幼児連れでも泊まれる。シャワー、トイレが、それぞれにある。
広い庭、部屋、レストラン、テラスがあり、パーティ、ブライダル、会社の会議も使える。キャンピングカー向けのスペース、電動自転車レンタルもある。
経営者のジャンピエトロ・ピザ―二さんは、親の農業を継いでアグリツーリズムを始めた。1998年にレストランから始めた。2006年6部屋を開業。2012 年、追加で5部屋を開けた。
6歳上のお姉さんがいて、姉と農業法人を二つに分けた。理由は、州の決まりで、アグリツーリズムは部屋数12室までとなっているためで、部屋数を増やすために2つの法人にわけた。
現在、お姉さんが12室。ジャンピエトロさんは9室。ジャンピエトロも姉さんも、一時は、外で働いていた。レストランを開けるとここに戻ってきて働くようになり、親の農業を継いだ。
農場としては大規模だった。農業でトマト栽培を2015年まで150haやっていた。現在、畑は25ha、貸しているのが45haある。全部で70haがある。今は野菜や果物と穀類を育てている。
ジャンピエトロさんに言わせると「イタリアの基準でいうと、僕たちのタイプというのは、中くらいも達していないのではないか」とのこと。
アグリツーリズムを始めた理由は2つ。古い建物の再利用だ。納屋、豚小屋、干し草の貯蔵庫など、今では使わないものがある。もうひとつは、親の代に栽培していたトマトの価格が下落したこと。新たな事業を手掛ける必要があったから。
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リノベーションして生まれ変わったアグリツーリズム
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学ぶ場としてのインターンシップ制度もある
アグリツーリズムを開業するには、国の支援事業があると、ジャンピエトロさん。
7年ごとに農村開発プログラムがEUであって、それが地域に降りて来る。その7年の区切りのうちに、1つの法人が、2件まで補助申請ができる。その1件の申請となる最大の金額が50万ユーロ。申請した金額の40%が補助金として支給される。それが平野部の補助率。丘陵地や山間地となると、山間エリアは50%、若い世代の農業従事者だと55%となる。
しかもアグリツーリズムでは、レストランで出す食事の原材料の35%は自社のもの、80%が地域のものか州のものという決まりになっていて、3年に1回、州政府から適正な運営がされているか検査が入るという。
ジャンピエトロさんからも、アグリツーリズムは、資格試験があると説明を受けた。受講料は1000ユーロ。授業は150時間。教科書もある。80%以上の出席で試験に合格しないといけない。授業ではアグリツーリズムの現地でのインターンシップもある。ジャンピエトロさんも講師として、現地の受け入れを行っている。
さらにアグリツーリストという労働組合組織があり、会員になると会計や労働に関する運営のサポートを受けることができる。
ボローニャには、アグツーリストの事務本部があり、ウエッブサイトの運営がされていて、そこから全国や海外に紹介がされ、誘客に繋がっている。
■ウェブサイト:Authentic Italian Agritourism
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Authentic Italian Agritourism
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サイト内情報の例
現在、エミリアロマニャ州では、アグリツーリズムは1251軒にもなったという。そのことで、都市や海外からの観光客も増え、また施設も充実していることから、会社の商談会、会合、イベント、パーティ、結婚式などにも使われるようになっているという。
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レストランの外観と内部。
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ここはかつてチーズ工房として使われていた。
「ニッポンはおいしい! 食と農から未来は変わる。地域に豊かさをもたらす女性たちの活躍」金丸弘美著 理工図書出版(9月13日発売)
YouTube配信中 https://X.GD/666Xd
上野千鶴子さん推薦(社会学者・東大名誉教授)「女性がつくる日本農業の未来!」
発売2か月半で「月刊ガバナンス」「月刊JA」ほか30媒体で紹介されました。
予告:
●自治体向けの雑誌【実践自治Beacon Authority】100号記念特集(12月25日発売)
「これからの自治体と地方創生」をテーマに6ページを組んでいただきました。
●「月刊NOSAI」(農業共済協会)2025年1月号
イタリア・アグリーツーリズム(農村観光)を10ページ特集しました。
●自治体向け【ふるさと財団】地域未来創生スクールが開講
講師として参加します。