例えば、エネルギーに関して言えば、電気・ガス料金や燃油価格の上昇に対して、政府は補助(電気ガス料金の値引き分の供給先への補填や燃油激変緩和措置)を出します。地方経済や低所得者への即効性があると政府は言います。確かに中小企業の経営者としては少しでも経営上のコストが下がる、いや、上がることを抑えることはありたがいことではありますが、頭痛で苦しんでいる患者に対して痛み止めは処方するが、原因を追求しその元を絶つ治療や元々の体質を改善するための指導をしないようなものだと思います。

ですから、今後AI等の普及で電力需要が増え電力が不足するので、原発が必要で、その再稼働だけでなく新設も進める、という短絡的な政策しか出てきません。自民党の選挙公約の中でも、いつの間にか「原発依存度を可能な限り低減させる」という表現がなくなり、「原発を最大限に活用する」に変わっています。経団連も国の「エネルギー基本計画」に対しての提言の中で同様のことを言い始めました。

この国のリーダーを任じる人達から長期的な視点に立った大局的な議論が聞けないことは残念ですし、とても心配です。依然としてフォアキャストの議論に終始しているように感じます。果たして過去から現在の延長線上に私たちが望む未来はあるのでしょうか? 今こそバックキャストでの議論が必要なはずなのに。

私たち中小企業の経営者も同じような状況に陥りがちだと思います。「今日はバイトは来てくれるのか?」「月末の資金繰りは大丈夫か?」などなど目の前には即対応しなくてはならない課題が迫ってきます。それらの対応に忙殺されてしまい、中長期的なことを考え準備をすることがなかなかできないというのが実態ではないでしょうか。もちろん、目の前の喫緊の問題から目をそらせず迅速に対応していくことは必須であります。同時に、「そんな余裕はないよ!」とか、「そんな青臭いこと!」と思われるかも知れませんが、少し目線を上げて、地域のこと、世界のことにもアンテナを張りつつ、将来に向けての自社・自店のなりたい姿を思い描いていくことも大切だと思います。

フォアキャストからの問題に対応しつつ、同時に、バックキャストで考え、なりたい姿を描き、その姿と現状の差が取り組むべき「課題」です。そして、その課題解決のための具体的なアクションプランを着実に実行していく。気候変動しかり、不安定な国際情勢しかり、一見他人事に見えるが私たち地域の中小企業の日々の経営に直接的に影響を与える要素が増大、かつ複雑化していくからこそ、エネルギーに関しても敢えてバックキャストの目線も大切だと思うわけです。