リサイクルのプラントでは、解体現場から収集運搬会社が運んでくる廃棄物を受け入れている。東京都、埼玉県が中心だが、50キロ圏内の首都圏から運ばれてくる。石坂産業自体も収集運搬業の許可を取得しているが、自社の収集運搬は少ない。
廃棄物はミリ単位まで、分解分級し、リサイクルしている。
コンクリートは粉砕して、100%リサイクルされいる。木くずは段ボールやパーティクルボード(材料をチップ化し加熱圧縮したボード)、家畜の敷材、バイオマス発電の原料などにリサイクルされる。コンクリートの中の鉄筋、釘などは、分別して有価物として出荷される。軟らかいビニールは紙くずと混合して熱をかけて固められ、高品質の固形燃料RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)がつくられ、石炭の代用品としてボイラー燃料になる。瓦礫や土砂は最終的には砂になり、埋め戻し材、盛り土材として公共事業等で使われる。
選別工程ではAI(人工知能)を取り入れてロボットで選別していく機能の開発、実験も行われている。
石坂産業のリサイクルプラントの駐車場で搬入を待機するトラック
「製品を造る段階からリサイクルできるように変えていかなければいけない。廃棄する時のことを考えていないものが作られること自体がまずいわけです。これを変えるゼロ・ウェイスト・デザイン(Zero Waste Design 設計段階から廃棄される時のことを考えたモノづくり)を提唱しています。海外ではすでに始まっている。この考えをビジョンに掲げ、普及していきたいと考えています」(石坂典子さん)
実は石坂産業の本社屋や工場、三富今昔村の電力には、すべて再生可能エネルギーが取り入れられている。利用率は100%となっている。
「2年前から再エネを活用している。主に水力発電と太陽光の電力です。ほぼオール電化の工場に再エネを導入したので、脱炭素が大きく進みました」と言うのは執行役員の友國裕弘さん。
友國さんは、大阪府立大学工学部卒、米サンダーバード国際経営大学院修了後、官民の役職を経て、石坂産業株式会社に入社。現在は、内部監査およびエネルギー政策を担当している。
石坂産業内には、保全グループ6名(設備保全技術者=エネルギー関連設備の新設、補助金申請、メンテナンス等の担当)。エネルギー改革推進委員会委員7名がいる。このチームで、2040年ネットゼロカーボンに向けたロードマップ作成、エネルギー使用状況の見える化、エネルギー削減の取り組みの提案・実行、エネルギーに関する社内勉強会が行われている。
再生可能エネルギーの構成は、主に埼玉県の地産地消の再生可能エネルギー電力メニューの契約と、東京電力の再生可能エネルギーメニュー電力の契約になる。それに加えてリサイクルプラント・三富今昔村での太陽光や、風力による発電もある。地中熱を活用しLEDの利用や、自然採光、雨水利用などで省エネにも取り組んでいる。
「高圧の電力を再生エネルギーで導入しています。まず『彩の国ふるさとでんき』と呼ばれる、埼玉県主導ではじめた電力供給の仕組みができたときにすぐに契約しました。埼玉県が運営する浄水場(中川水循環センターと小山川水循環センターに設置)にあるメガソーラーの太陽光パネルから供給されています。それだけでは不足する分は、東京電力のグリーンベーシックプランという水力発電所から送られてくる再生可能エネルギーを契約しています。
できる限り地産地消の電力を使いたかったのですが、供給に限りがありました。再エネにかかる付加的な料金があり、これまでより電気料金が数パーセント高くなりますが、上昇しても再エネ化するという方法に舵を切りました。
社内の電力は基本的に6600ボルトの高圧電気で受電していて、それを社内の変電所のトランスで、必要な電圧(3300ボルト、400ボルト、200ボルト、100ボルトなど)に変換して実際に利用している形です」と、友國裕弘さん
大型鉛蓄電池設備
敷地内に4か所の太陽光パネルがあり、風力発電と蓄電池も設置されている。蓄電もされているので停電・災害時にも利用できる。
プラント工場の屋根に設置された太陽光パネル
「今、世の中では電力の需要と供給のバランスをとることが必要とされていて、その協力のためにDR(デマンドレスポンス)(図1)と呼ばれ契約も結んでいます。2023年の夏場にもありましたが、ときおり地域の電力が不足する事態がおきて、東京電力や地域の電力会社から、今日は何時から何時まで電力使用を減らしてくださいと要請がきます。その際にはできるだけ蓄電池の電力を使うことによって、東京電力から供給を受けている電力を減らし、実質的に地域に電力を戻しています。バーチャルパワープラント(VPP)とも呼ばれています」
バーチャルパワープラント(VPP)とは、工場や家庭などがもっている分散した小さなエネルギーリソースを、IoT(モノのインターネット)を活用し、電力の需給バランス調整に活用し、あたかも一つの発電所のように機能させること。
(図1)デマンドレスポンスの図(経済産業省資源エネルギー庁ホームページより) ディマンド・リスポンス(DR)について|資源エネルギー庁 (meti.go.jp) https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html
それ以外には、施設の中に個別のバッテリーをもっている小さい太陽光パネルから、夜間照明で使うとか、駐車場の中の照明などにも使っています。三富今昔村のミニSL車庫の屋根の上にある太陽光はミニSLを運行するための電力として利用しています。
三富今昔村を走るミニSL
廃棄物搬入車両の駐車場の看板裏に貼られた太陽光パネル
「私たちも最初から再エネや脱炭素とかを意識していろんなことを始めて来たわけではありません。20年前には、所沢ダイオキシン問題と呼ばれるニュース番組の誤報による風評被害で、地域から大バッシングされる苦難のときもありました。
三富今昔村を作ってきたことなど、いろいろな取り組みをやっていた中で、生物多様性の復元や、プラントの中の省エネなど、徐々に様々な分野に、試行錯誤で視野が広がりました。
プラントの中の重機を電動に切り替えたのも、最初は脱炭素化のためというのではありません。プラントを屋内型にしたことで、通常の重機はディーゼルエンジンで動いているため、排気ガスで煙った状態になる。その状態を改善したいと電動化することから始まりました。もう16年前のことです」
工場内の電動化された重機
ガラスに遮熱フィルムが張られた会社のビル
リサイクルプラントには、ガラス張りの見学通路が設けられていて、社員で専任のガイドが丁寧に工程を説明してくれる。瓦礫や解体された家屋が、リサイクルされて再利用されることが学べる。
海外でも関心が高く、これまで45か国以上から見学に訪れている。
「本社のビルの窓は遮熱のフィルムが全面的に貼ってあります。一つは外からの熱を取り入れないようにフィルムで保護するということ。もう一つは防災の観点でフィルムを張っておくことで大きな震災が起きた時にガラスが砕けて周りに飛び散らないようにするためです。照明はすべてLEDです」(友國さん)
壁面緑化された工場の壁
リサイクルプラント内では、ホコリが立たないように、天井からミストが出ていたり、騒音防止を兼ねて壁が緑化されたりしている。
照明も、電力をなるべく使わないようにLEDにするだけでなく、明かり窓を多く設けて、日中の天気のいい日には、ほぼ電気をつけなくても外からの採光だけで工場が運営できようになっている。
プラント内のLED
雨水は地下に約2500立方メートルのタンクがあり、そこに貯めてある。一番目につきやすいのはコンクリートプラントの入り口にノズルでシャワー状に噴霧するところがあり、そこでタイヤを洗浄するようになっている。
プラント建屋の屋根に降った雨が、雨樋を通じ地下タンクに流れていく仕組みになっていて、雨水への混入物を取り除くため、フィルターを通して水はろ過して使用されている。
雨水によるトラックの洗浄
里山を再生した三富今昔村には、古民家を再生した展示スペースもある。現場のフィールドを体験し、里山再生、農地復活、土の再生、生物多様性の取り組みまで学べる場になっている。ペットボトルの使用を減らすために、社内の自動販売機ではペットボトル飲料は一切販売されていない。里山の自然環境を知ってもらうために、ゴミ箱も置いてない。ゴミはすべて持ち帰ってもうらように案内される。
「循環~めぐる~」という三富今昔村の成り立ちをまとめた冊子が作成されていて、里山の自然や環境、生き物、作物などが丁寧に紹介されている。環境に関する言葉の解説もされている。
また三富今昔村の入り口にある「くぬぎの森交流プラザ」の地中熱空調換気システムは、地中の安定した温度を地下から取り出し熱交換することで、冷房や暖房に使用する電力を削減している。
「まだ実験中ですが、プラントの中で埃を吸い取る集塵機を回すときに、排風が出て行ってしまうので、その風を使って発電するとか、工場の機械が大きく振動しているので、その振動が電気に変えられないかとか、いろいろなエネルギーを作り出す研究もやっています」
これらの取り組みを進めていくなかで、社内では、世界的な脱炭素の流れを受けて、もっと脱炭素に向けて積極的に取り組む必要があると、議論が高まった。
さまざまな検討がなされて、まず、2019年に設立された「再エネ100宣言 RE Action(アールイーアクション)」(企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する新たな枠組み)に参加。
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量(環境省・経済産業省ホームページより)
脱炭素という枠組みは 「スコープ1」「スコープ2」(自社が直接排出するGHG)「スコープ3」(サプライチェーンの上流側、下流側で排出されるGHG)がある。石坂産業では、すでに「スコープ1」「スコープ2」は目途が立っている。それを「スコープ3」をどう広げていくかも検討されている。
私たちも再エネを導入しただけでは「スコープ3」の目標は達成できないため、どうやって達成するか。2040年まで、まだ17年あればなんとかなるかなと、現在、模索中です。「スコープ3」は事業活動の上流側下流側なので、わかりやすく例をあげれば、廃棄物を搬入しているダンプが使用しているディーゼルエンジンの軽油から発生しているCO2などになります。下流側は当社の製品を使用する中で発生しているCO2。社員が通勤で利用している車。出張に行くために利用する飛行機で排出されるCO2。あらゆる事業活動に関連し排出される、すべてのCO2になる。
それぞれの会社のすべてが「スコープ1」「スコープ2」プラスアルファを達成すれば世界中の脱炭素目標は達成できますが、そんなことはいきなりおきません。大きな会社や、私たちのように強い使命感を持っている会社が率先してなんとか「スコープ3」を達成しようと目指す過程で、 周りの企業を巻き込んでいく形でやっていくっていくのがいま世の中の流れです」
三富今昔村内にリサイクル可能な資材だけで作られたすべてが循環するバイオトイレ「トイレトワ」
石坂産業株式会社(〒354-0045 埼玉県入間郡三芳町上富1589-2)
三富今昔村 SANTOME
(注)この記事は「月刊NOSAI」(全国農業共済協会{2024年1月号に掲載されたものを編集部の許諾を得て転載するものです。