三芳町の人口は37,509人、世帯数16,900世帯。所沢市、ふじみ野市、志木市、富士見市などに隣接している。

「三富今昔村」は関越自動車道「所沢IC」より、国道463号線浦和所沢バイパス、県道所沢堀兼狭山線を経由して約20分のところにある。東武東上線ふじみの駅、西武線所沢駅から1日3便の専用バスも運行させている。ふじみの駅は東武東上線池袋駅から急行で27分。西武線所沢駅は、西武線新宿駅から35分、西武線池袋駅から21分と、東京都の都市部からも近い。

東武東上線・西武池袋線との送迎バス

交流プラザの入り口

「石坂オーガニックファーム」では、茄子、ニンジン、きゅうり、トマト、ほうれん草、小松菜などを栽培。固有種を中心に40種類あまりの野菜が栽培されている。有機JAS認証とグローバルギャップを取得。さらに落ち葉を集めて堆肥にする地域の伝統農法も継承ししている。この取組を行う埼玉県武蔵野地域(川越市・所沢市・ふじみ野市・三芳町)が、2023年7月5日に国連食糧農業機関(FAO)により、「武蔵野の落ち葉堆肥農法」として世界農業遺産に認定された。

石坂典子さんは、農業を手掛けた理由を次のように話す。

「一般の方々に地域の里山開放を始めたのが8年前。かつては不法投棄が続く里山でした。生物多様性も崩れ、藪みたいになっていました。ゴミを片付け、草刈りをして、昔の農業用の林として使われていた里山の復興に挑戦してきました。落ち葉を一年間集めると1300立方メートルぐらいになる。それで落ち葉堆肥を作りました。それを農家さんに分けようとしたら、周辺の農家さんたちはいらないと。今は効率的な肥料があるから、昔のようなやり方をするところがほとんどなくなっていたのです。素晴らしい土ができるのにもったいないという所から始まりました。農地を使ってくれないかっていう近隣の声が結構入るようになりました。都内に勤めに行く人が増え、耕作しなくなった農地がちらほら虫食い状態で出てきていました。我々が農地を活かし回復している土に加えて、もう一つ、石坂産業がリサイクルする住宅の床下から出てくる土があります。その中にゴミがたくさん混じっていたりするのを分別分級していますが、その土の価値をどう高められるかという、共通の課題がありました。それで、近隣の農地を約6000坪購入し、農業生産法人石坂オーガニックファームを立ち上げました」

入り口を入るとある「くぬぎの森交流プラザ」受付と料理、交流の場ともなっている

「三富今昔村」の入り口「くぬぎの森・交流プラザ」中で食事ができ自家製パンも販売される

自家製パン

年間200プログラムの体験がある「三富今昔村」
 
並行して手がけているのが、里山を再生した「三富今昔村」だ。

村内にはアスレチック、落ち葉のプール、輪投げ、ミニSL、焚火のできる場、ツリーハウス、木漏れ日の下のベンチ、子どもの遊べる水辺、田んぼ、神社などがある。予約制だが「DAYキャンプテント」、森林浴もできる「SATOYAMAテラス」、野菜づくりを学べる「ベジタブルスクール」というのもある。

子供たちのへの環境に関する絵本の読み聞かせ会、能楽、昆虫観察会などなど、さまざまなイベントが開催もされている。

「年間200プログラムを運営しています。落ち葉堆肥を創る落ち葉かき、タケノコ堀り、5月の柏餅づくり、正月の餅つき、節分鬼退治、田植え、稲刈りなど。冬期にはファイアーサークルといって焚火のイベントをしています。サツマイモ焼き、ホットドックをつくる、ご飯を炊くなど。夏休みには、自由研究プログラムで、里山の動植物を観察してサークルマップを作ろうというプログラムもあります。リサイクルの工場見学をしてグリーンアクションリーダーを目指そうというのもあります」とは、三富今昔村事業推進部の三木千鶴さん。

ほかにも「草木染め」「山菜と野草天ぷらを味わう」「野菜摘みで里山ピザトーストをつくる」「春の里山生き物探し」「アニマルフェアのニワトリ観察&うみたてたまご収穫」「親子で楽しむ無水カレーづくり」などなど、さまざまな体験メニューがある。

村や農場の管理を行う「森の案内人」と呼ばれる専任スタッフが12名いる。

「エキスパートの専門集団みたいな形です。農業に特化したスタッフもいますし、樹木医、野菜ソムリエ、生物多様性の博士号をもっているスタッフもいる。うちの社員はすごいです。草木染めをするワークショップをするハーブ担当者がいたりもする」(石坂さん)

 食べるところもあり、オーガニックのパン工房、農家の納屋をリノベーションして生まれた食事処「納屋カフェMEGURU]、食事だけでなくセミナー会場としても利用できる「くぬぎの森交流プラザ」など。キッチンカーもある。オーガニックの商品、リサイクルの雑貨、ガーデニングの商品などのナチュラル雑貨ショップ「Oak Leaf」(オークリーフ)もある。

村内では、ハチミツやハーブティーなどの商品も作られていて販売もされている。とりわけ、パン工房でつくられる、自社農園の小麦を使っている天然酵母パンは絶品。できるそばから売れていく人気商品ともなっている。

村内では、古民家を移築し昔の暮らしや営みを観ることができる「三富今昔語り部館」があり、ここには民具、衣装、家具、食器などが展示されている。そばには足湯もある。横には「くぬぎの森環境塾」があり、セミナーや学習会で使えるようになっている。企業研修でよく使われている。

「石坂オーガニックファーム」の野菜は食事処の材料や加工品の商品づくりとして使われている。

かつて使われていた民具や家具や生活用具が展示されている「語り部館」

語り部館の様子

語り部館の様子

三富今昔村の「くぬぎの森のカフェ」

手前にミニSLの線路がある

維持費用は保全費というかたちの入場料で賄う
 
取組を次第に見える形にしていくことで共感する人が地域にも広がっていった。

「地権者の方に理解してもらうのは一年ぐらいで話が進みました。ゴミの不法投棄を片付け、綺麗な状態を見せたら『うちもやって』と、そんな感じでした。声をかけたら広がった。キリがないので今は一旦ちょっと今止めてるって感じです。その取組を継続できる環境にしたのが三富今昔村。一般の方たちに保全費をいただく。維持費には人件費もふくめて1億円近くかかります。うちは社員でやってる分、別の営利事業で売り上げていて、なんとからやってこれました」(石坂さん)

入園料や食事代を、森と畑の維持管理費に回すようになっている。入場料(保全費)は、ミニSL鉄道切符つき大人(18歳以上)1人880円(税込) 、鉄道切符なし大人(18歳以上)1名770円(税込) 。学生、未成年、障害者手帳を持つ方は保全費を免除。

食事のできる「くぬぎの森交流プラザ」「納屋茶寮 MEGURU」、民具の博物館「三富今昔語りべ館」、ナチュラル雑貨ショップ「Oak Leaf」(オークリーフ)のみの利用の場合は保全費は不要。

また、初来村時は「三富今昔村入村BOOK」(220円、税込)を、家族等1グループにつき1冊「購入することとなっている。この冊子には村の成り立ち、ルールが書かれたもの。

村内には、法人向けの体験農園がある。法人が社員に、野菜と環境づくりを学ばせる場となっている。スタッフがフォローし指導をするというもの。

それと、一般向け8区画で使用料年間年間11万2200円の体験農園「ReDAICHI」がある。道具や種は用意されている。実際に固有種野菜の有機栽培をしてみたい人に人気となっている。

乗って楽しめるミニSL

農業と土づくりに使われる落ち葉堆肥

2023年にオープンした料理店「納屋MEGURU」で登場した料理①

2023年にオープンした料理店「納屋MEGURU」で登場した料理②

2023年にオープンした料理店「納屋MEGURU」で登場した料理③

里山は江戸期に作られた農業と暮らしの里だった 
 
石坂産業は、リサイクル業では突出した存在。建設物の解体時に排出される瓦礫類、コンクリート、プラスチック、木材、金属などを中心に、土砂系混合廃棄物と呼ばれるものに主力とするプラントで、リサイクル率は98%。環境に配慮した取組は海外にも注目され、研修や視察で多くの人が訪れる。環境学習の場として一般開放もされていている。ものづくりから設計を見直して、循環型社会を実現する「Zero Waste Design」を提唱している。

現在、売り上げは69億円。従業員は200名。女性の比率は約4割。管理職・事務職の半部以上は女性だ。男女共同参画でも注目されている。

ゴミの不法投棄の場となっていた里山は、歴史を辿ると、江戸時代に5代目将軍徳川綱吉の側用人・川越藩主柳沢吉保が、農産物を栽培し藩政を豊かにするために開拓をしたところだった。

当時は薄の原で木々は1本もなく、10キロの範囲に川がなかった。植林し森を作り、木々が根を張り地下の水脈を引き上げ、そこで井戸を掘り水を確保し、1軒あたり幅72メートル、奥行き682メートルの短冊形の土地に、家屋、畑、雑木地を作り人を住まわせた。屋敷の周りにはケヤキ、ヒノキを植え防風林に。成長すれば材木資材に。落ち葉は堆肥化して肥料にするという。実によく考えられた循環の仕組みが築かれていた。 

やがて年月が経ち、切り開かれた土地は開発され、工場地や流通センター、住宅地などになった。一部の地域は廃棄物処理場になり、石坂産業もその一つだった。そこから逆転の発想で、リサイクルや持続社会につなぐ自然との調和が始まった。

農業と里山再生の経緯を石坂さんは次のように話す。
「私たちは産廃処理事業者。どちらかというと、地域から見ると迷惑施設という関係性で見られやすい。我々が地域貢献事業として ボランティアでゴミ拾いを始めました。周辺の地権者さんのところではゴミの不法投棄されているケースが多く、最初のうちは声をかけて片付けていました。片付ける分には、地権者の方も助かるという話でした。ところが不法投棄が繰り返される。それで、土地を我々に貸してくださいと。区画管理をして不法投棄されないようにしますと、フェンスを作りました。そうしたら、ゴミをダンプでもってきて捨てる、家電品を放り投げてということがされなくなってきました。ただ、それだけだと里山は藪の状態のまま。鬱蒼としていて価値を見出せない。そこで農業用にと下草をきれいに刈ってみました。けれど、農業用に管理するのはものすごいコストがかかります。であれば、生物多様性という方向はと、目を向けました。生物多様性の森の復活です」

石坂産業のリサイクルプラントの入り口

石坂産業に持ち込まれた家屋などの木材

石坂産業のリサイクルプラント。ミストが出ていて埃がたたないようになっている。

土壌の回復と生物多様性の調査を実施
 

その頃、微生物の種類と数量を定量的に測る研究も始めていた。有機物に微生物が発生し餌を食べる。餌を食べた色で量を見て活性値を判定する装置を開発したかった。土地調べたら微生物が非常に少ないという状態だった。落ち葉堆肥を混ぜながら土づくりを始めたところ微生物が増えて、三年間で優良な農業土として変わり、目で見てわかるようになった。

「土壌の中の微生物の見える化をして、三年ぐらい調査して回復させ、その頃に、併せて私たちが管理している里山の森にどれだけの生き物がいるのか調査し、動植物の種の量と、私たちが十年間近くかけてどう回復していけるかというデータ取りもした。農作物を作るには土中の環境が非常に重要という意識が目標になった。環境再生ですね。生物多様性の森の再生と同じように土の中にも環境がある。土壌微生物環境の復興を、と思うようになったのは研究をされている先生方の影響です。それで里山の生物多様性に目が向いた。2022年の国連生物環境多様性条約第15回締結国会議でも言われるようになった。50年の森づくりを打ち出したのがその頃。埼玉県のレッドデータブックに載っている生き物や植物も復元していて、まさにここはリアル生き物図鑑であるともいえます」と石坂さん。

村内にある「くぬぎの森」は、2012年、企業の生物多様性への取り組みを評価するJHEP(ジェイヘップ Japan Habitat Evaluation and Certification Program)認証で「AAA(トリプルA)」を受賞。これは公益財団法人日本生態系協会が実施しているもの。同協会に依頼し生態系調査を実施した。これには3年がかけられた。その結果、動植物あわせて1300種以上の生き物が生息していることが明らかになった。

 有機JASの取得に関して、石坂さんは、次のように話す。

「世界で通用する野菜ってなに、という話をしたときに、グローバルGAP(世界基準の農業規格)があるというので取得しました。ところが日本で取ってるのは数%みたいな話でした。日本では有機JASが一般の人たちには理解されているからと認証を取得しました。認証を取るのが目的でなく、世界で理解される野菜とは何かというのを学ぶため。そうしたことに取り組みながら野菜作りを始めました。野菜を大量に作ることは難しいわけです。株の間を密着させないとか野菜側にもゆとりが必要。ビジネスとしてなり得るのかというところで環境再生の農業となりました。今、日本で多く行われている農業ビジネスとの大きな違いなのかなっていう思いがすごくあって、だからこそ、野菜を高く売ることではなく、野菜がどうして作られているかという環境体験をするための農業にしようということで、今、企業さんや一般の人に農地を借りてもらったり、有機農産物を作るという暮らし方の体験をしてもらっています。それと、作った野菜はレストランがあるので使い切っちゃうんです」

石坂オーガニックファームの農園①

石坂オーガニックファームの農園②

次の構想は里山と農業を繋ぐヘルスツーリズム
 
「三富今昔村」には、原木栽培のシイタケ。日本ミツバチの養蜂。日本在来種のヤギ小屋、平飼いの養鶏場もある。

鶏は100羽ほど飼われている。餌は国産米。卵は有機卵で1日60個とれる。糞は堆肥に使われる。鶏は3年で肉として交流プラザの「おいしい体験」として使われる。骨はラーメンスープ。卵はオムライスになる。

執行役員・社長付特命室室長・くぬぎの森環境塾塾長・熊谷豊さんは 次のように話す。

「『石坂オーガニックファーム』の野菜づくりで、肥料としてリン必要なので鶏糞を入れたい。有機JAS認証は、鶏が有機の飼料を食べている証明がないと使ってはいけないと言われた。鶏糞は九州の会社が扱っていると聞いたのですが、運ぶとなるとエネルギーも使うからあまり意味がないということとなった。だったら自社でやろう、しかも社長がアニマルウェルフェア(動物福祉)をやろうと。それで養鶏場を作った。「ゴトウもみじ」という在来種の鶏にして平飼い。里山にはいくらでもスペースあるから、それでスタートしました」

次の展開は、町と連携したヘルススツーリズムの構想がある。

「 今管理している農地の脇に三芳町の清掃工場の跡地6000坪があります。昔のゴミが埋まっていた場所です。2年かけて全部掘り出しました。逆開発で、コンクリートをなくし、里山を再生する復興事業をやろうとしています。町は観光産業化への協力事業として場所を提供、安く貸しますと。私たちは里山を復興させて、人が訪れるヘルスツーリズムみたいなことをして行きたいなと思っています。温泉も掘りました。ウエルビーイング(幸福、健康、福祉などの意味)という世界観を作りたい。 里山と農業と人をどう繋げるか。三富今昔村の次のテーマは 自然と文化と人々を、ふたたびつなぐ、です」と石坂さん。

農業と環境を主体とした新たな町づくりが始まろうとしている。

■「三富今昔村」ホームページはこちらより御覧ください。
※関連記事:食の雑誌「味の味」(アィディア)
  金丸弘美エッセイ「地食が面白い」より。(偶数月連載)
  『有機小麦栽培と天然酵母から生まれる「三富今昔村」のパンたち 』 (2024年6月)
 『環境と旬と循環を食から学ぶ埼玉県「三富今昔村」』 (2023年6月)

三富今昔村の入り口

平飼の鶏。雌20羽に雄1羽の割合で飼われ全体で約100羽。

※この記事は、「月刊NOSAI」(公益社団法人全国農業共済協会)2023年12月号で掲載された記事を編集部の許可を得て転載。ただしWEB版用に再編集されています。