この計画策定プロセスと内容には2つの問題があると思います。

1.エネルギーの全体像を観ていない
2.エネルギーの供給側の論理だけで需要側からの視点がない


我が国における最終エネルギー需要の約半分は熱需要です。ところが、この計画は「電源構成」つまり、「発電方法の割合」の話に終始します。ほとんどのメデイアは、勉強不足なのか、エネ基=電源構成としてしか報道しません。

1)まず、熱も含めたエネルギーの全体増を把握し、
2)それぞれのエネルギーの種類ごとにどのくらいどう減らすか減らせるか、つまり、省エネの計画を作り、

3)その後に、必要なエネルギーをどう調達/供給するか

という3段階で議論を進めるべきだと考えます。

例えば、太陽熱や木質バイオマスボイラーなど熱エネルギーの利活用は、既存の技術でできるものが多いにも拘わらず、かつ、化石燃料のない我が国でこそ導入すべきであるにも拘わらず、ほとんど顧みられず進んでいないのが実態です。

それは結局、これまで電力事業に携わってきている業界とそれに寄り添う関係官庁という供給側主体の視点しかないからでしょう。3年前の計画では「可能な限り原発依存度を低減する」とあった表現が、脱炭素を隠れ簔に「原発の最大限活用」という言葉に差し替えられようとしていることからも伺えます。
 
供給側だけでなく、需要側からのアプローチも併せてこそ、この国の将来に大きな影響を与える国のエネルギー政策の根幹であるべき「エネルギー基本計画」になりうるのだと思います。これからの議論を注視していきましょう。

ここでふたつの提案をします。

1.中小企業の省エネ診断の義務化を
突飛に思われるかも知れませんが、中小企業に省エネ診断を義務化するのはどうでしょうか? 省エネ診断をすれば、省エネの具体策を作ることができます。例えば、照明のLED化、古いエアコンや冷凍冷蔵庫の入れ替え、建物や配管の断熱工事など、新たな需要の創出につながり、地元の中小企業の仕事も増えます。今までどう使っていいか分からずに手が出せず余っている補助金の活用にもつながります。

省エネ診断に係る費用は国が負担すればいいと思います。エネ診断は20万円/件程度でできます。20万円×300万社=6000億円、3年間でやるとすれば、年2000億円です。政府は、GXについて呼び水としてまず20兆円を用意する、そして、官民で150兆円と言っています。そのほんの一部を振り分けるだけです。将来を見据えた新技術開発のための大企業を支援することも否定はしませんが、同時に、より多くの企業や人が自分事として関われ、かつ、今ある技術で今できることから始めることは極めて有効かつ現実的だと思うのです。

2.地域版エネルギー基本計画を
国の基本政策に全てを委ねるだけでなく、地域でも地域ごとのエネルギー基本計画を策定すべきだと思います。なぜなら、地域ごとにエネルギーに関する条件、環境が異なるからです。例えば、工場を持つ地域と住宅地域では異なります。屋根が多い都市部と森がある山間部では異なります。ですから、地域が主体となって自分の地域の計画を、前述の3つのステップで策定することを提案します。

地域の供給側と需要側が揃った地域のステークホルダーが膝を突き合わせ、議論し策定する具体的な計画は、自治体の政策になります。政策になれば、中長期的な視点に立って企業も金融機関も安心して投資・融資ができるはずです。

また、行政も「補助金を取るために急遽計画を作る」ような「補助金ありき」の政策から脱皮した地に足の着いた中長期的な取り組みが可能になります。
脱炭素は待ったなしです。確実に脱炭素を進め、持続可能な地域の暮らしと経済を実現するために、ことの本質を見失わない冷静、論理的かつ現実的な議論が必要です。

来る5月25日(土)小田原での会員大会ではそんな議論を共有したいと思います。まだまだ、登録をお待ちしています。