日本人は、他の国よりも、ゼロカーボンを、すごい不便で我慢が必要だとか、誤解している傾向があるのを何とかしたいと考えました。これまでの炭素文明では、一部の国で産出される化石燃料を取り合い、エネルギーが原因で戦争まで起きてきた歴史がある。それより自分たちの、身近なところでいくらでも太陽のエネルギーが有り余っている。ゼロカーボン社会では、活用されていない地域の自然エネルギーを使って地域の中で、どれだけ豊かになる暮らしができて、どう変わるかという、レクチャーを講師の方にしてもらった。そしたら、会の冒頭で「ゼロカーボンって我慢しないといけないことが増えそうだ」「(熱心な)藤川さんに叱られるんじゃないか」とか、ネガティブなことを言っていた同じ人たちが、「暮らしの選択肢が増えるし豊かになる」「人権が守られて公平な社会になるんだなあ」と、コメントしたんです。アンケートでも多くの人がゼロカーボンのイメージを置き換え、共感モードでした」

上田リバース会議の様子。多くの意見が飛びだした

県が出した「長野県ゼロカーボン戦略」は高い評価を受ける
 
2回目は、「2050ゼロカーボン上田への道」。講師は、茅野恒秀さん(信州大学人文学部准教授)。地域で脱炭素が進むとは、どういうことかというレクチャー。その頃、長野県は都道府県では一番に気候非情事態宣言を行い、その後「長野県ゼロカーボン戦略」を発表した。2030年のCO2削減目標は60%減(2010年比)で、当時、日本の中で最も高い数値。その後、策定された「長野県ゼロカーボン戦略」は、どのように削減していくか具体的な施策が盛り込まれていることが高く評価されている。
 
「長野県は、こういう風に計画を作れば、高い目標だけれども60%は可能だ、と計画を策定しました。というレクチャーの後に、上田市のデータで、県と同じ方法で削減目標を立てると、こうなりますね、と解説してもらいました。つまり、できることをできる範囲でやるのではなくて、本当にゼロカーボンを達成するためのバックキャスティング(最初に目標とする未来像を描き、それを実現するために、現在から構成をする)の手法です。アンケートでは70%以上の人が本当に気候変動を止めるための目標が必要だと回答しました」
 
3回目のテーマは「とはいえゼロカーボン、できない理由あげてみよう」。目標を描いたからといって、太陽光つけます、断熱します、バスに乗ります、とは、ならないからということからだった。「お金がない」「メリットがわからない」「ほかの人がやってない」と、できない理由を出してよいとなると、参加者からは、大量のできない理由がだされた。
 
「次に、「できない理由は何ですか」、と、聞いて出し切ってもらったあと、「では、解決の鍵はなんですか」と聞いたところ、「もっと情報を周知すべきだ」「すでに太陽光をつけている人の声を聞こう」など、いっぱい出てきました。できない理由や、その背景を分析すると、おのずと浮かんでくる解決の鍵。例えば、メリットを行政や国が、はっきりさせることが大事。地方銀行がメニューを作ってくれると融資も受けやすい。他にも「太陽光ならではのプランを作るべきだ」とか、あと「義務化すればいい」とかが出てきました。参加者は百人以上。いろんな意見が出てきました」
第4回の最終回「みんなのゼロカーボン会議うえだ」はシンポジウム。上田市内で、最も野心的に脱炭素に取り組み、世界レベルの目標を立てて、2035年までにスコープ3まで達成させると宣言されている日置電機株式会社さんに登壇してもらった」

他にも登壇者は、高気密高断熱の住宅をずっともうずいぶん前から何年も前から建て続けている工務店の窪田陽介さん。あと大学生で脱炭素の活動している五十嵐千紗さん。それに、私とでディスカッションしました」
 
※「スコープ3」とは、自社だけでなく、関わる流通先の事業者や、販売先、関係者までが、つまり自社の上流、下流も、脱炭素に取り組みを行うこと。
「知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし スコープ1・2・3」とは」(経済産業省 資源エネルギー庁)
2022年10月25日開催「みんなのゼロカーボン会議うえだ」
ゲスト 茅野恒秀さん(信州大学人文学部准教授)
『地元企業』岡澤尊宏さん(日置電機社長)久保田訓久さん (日置電機常務)
『地元工務店』窪田陽介さん(クボケイ)
『大学生、若い世代』 五十嵐千紗さん(長野大学生)
『市民の取組』 藤川まゆみ (上田市民エネルギー)

 
「『ファーストペンギン(群れから1歩飛び出すこと)たち』のパネルディスカッション。つまり、まず行動しようというメッセージを込めた。やらないと気候変動は止まらないのだから、やるしかないよねとなった。その中で、司会から『今ちょうど、上田市が脱炭素計画を立てています。日置電機さん、御社にとって、上田市の計画は、どういう影響がありますか』という質問がされました。するとその役員の方は『地域の脱炭素が進まないのであれば、私たちは移転するしかありませんね』とおっしゃったんです。そのとき、土屋陽一上田市長は一番前の席に座っていらして、聴いておられた。これが「上田リバース会議」ゼロカーボン4回シリーズだった。その後、上田市の脱炭素計画の素案が出て、パブリックコメントがあり、パブリックコメントを書く会も開催した。きっと私たちは何らかの後押し力になっただろうなと思っています。上田市が、全国的にも高いCO2削減目標を立てたということは、行政の中ではかなり思い切ったことだったと思います。本当に快挙だったと思うんです」
「その後、私たちと、上田市の担当者とのコミュニケーションが以前より深まっていきました。脱炭素先行地域は多くの自治体が目指すと思うのですが、多分、上田では上田リバース会議で、なぜ公共交通が大事か、なぜスプロール化しちゃいけないのかっていうのを、話してきていました。上田リバース会議は、上田市が共催してくれていて、職員も参加しましょうと呼びかけまでしてくれ、多くの議員の皆さんが参加しているリバース会議には、大学生とか高校生も含めて市民の方とか事業者の方とか、たまに金融機関の方もいらっしゃるんですけど、参加された皆さんの、「こうしたいよね」「こうするべきだよね」とか、「大変だけどやったほうがいいと思う」などの声を市の担当に皆さんも聞き、その場を一緒に共有したんです。それがその後のコミュニケーションや共感が深まる土台になっていったと思います」
市の出す計画データをすべて検証し俯瞰する
 
「ゼロカーボンの4回の会議には、メインの講師を2人お願いした。お一人は千葉商科大学の田中信一郎さん。3.11の直後から長野県庁で25年、企画官としてエネルギー政策と、ほかの政策全般を担当されていた方。当時からお世話になっていた。県庁をやめられた後、フリーで、あちこちの地域のお世話をされてます。上田市の計画を読んでデータを拾い上げ、俯瞰する手法を提案してくださったのは田中さんです。2019年からのまちづくり活動にずっと伴奏してくださっている。もう一人は、信州大学人文学部准教授の茅野恒秀先生です。これまでも多くの脱炭素活動を一緒に取り組ませていただいています。
上田リバース会議で使うデータは、自治体の調査データを使うことが大事と考えています」
 
「上田市の各計画の冒頭にあるデータを自分たちで集めました。自分たちで見ることによって、上田市を客観視し、かつ公開して、この町は、こういう町だと思い込んでるけど、こんな風になってるよとか、こういうのがいいと思ってるけど、実はマイナス方向の数字になってるよとか、そういうことを発信しています。毎回テーマに関連するデータを会の冒頭にプレゼンし、それを前提に会を進行しています。パワーポイントを使って、上田市の現況の話を十分ぐらい。上田ビジョン研究会の座長の信州大学繊維学部の高橋信秀教授、または他のメンバーがプレゼンすることもあります」
 
これらの活動は、動画も公開している。
 
『上田の大危機を乗り越えるための五つのヒント』という冊子も作成され、これが活動の土台になっている。
※『上田の大危機を乗り越えるための五つのヒント

「冊子作成にはすごい時間がかかり苦労しました。編集のプロの方に、伴走していただいた。私は会議のときにプレゼンをしている。専門家じゃないから、一般市民に分かりやすく喋るのを心がける。それがベースにあるから、冊子は、すぐ出来ると思ったら、そうではなかった。本にする時に、データは、どれをどう使うかって、本当に時間がかかって、私の原稿が遅いって何度も叱られながら作りました(笑)」
 
冊子を作る費用には、『パタゴニア環境助成金』『地球環境基金』 などが活用された。
 
「運営は、上田市民エネルギー事務局が、参加名簿の管理とか受付とか、後でデータや動画やアンケート結果をメールで送ったりしている。それ以外は、私を含め、『上田ビジョン研究会』という異業種の集まりの有志たちがボランティアでやっています。中心メンバーは8人です」
高校生を中心とした「断熱改修ワークショップ」の開催
 
「スタートしたのは2020年。長野県白馬高等学校の生徒たちがやりたいと言い出したのをサポートしました。それが日本で2回目の教室断熱ワークショップです」
長野県北安曇郡白馬村北城8800にある。
白馬高校断熱改修ワークショップ
「高校生がやりたいって言った。学校が寒いと。言い出した子たちは、気候変動に関心が高く、このままでは雪があまりにも減って、自分たちがスキーをできなくなる。本当に地球が変わってしまうと危機感をもっている」
 
「ワークショップで、できるんだったら僕たちもやりたいと言って、その子たちの活動は、環境省の環境白書に載るぐらい注目されました。気候変動を止めようというイベントをやったり、教室を断熱ワークショップしたりということで、当時有名な3人組だった。彼らが、岡山県で、おそらく日本で初めての教室断熱ワークショップを行ったという話を聞いて、すぐ手を挙げて『僕たちもやりたいです』と」
 ※岡山県津山市立西小学校教室断熱ワークショップ

ホームページより①

ホームページより②

「この岡山のワークショップを企画した建築家の竹内昌義さんにすぐに引き合わせて、やりましょうってことになった。でも高校生や建築家さんたちや学校だけではなかなか出来ない。調整が必要なので、私たちがサポートしました」
 
高校の学生との出会いは、2019年「気候変動&地域経済シンポジウム『雪を守る、白馬で滑り続ける地域を豊かにする山岳リゾートを目指して』のシンポジウムだった。

「私も企画から関わって、パネルディスカッションにも登壇したんですけど、県知事や村長も参加した熱い会議でした」
 
「その時に声かけてくれた学生がいて「僕、上田市出身で、白馬高校に通ってるんですよ」と言っていた。その彼が断熱ワークショップの中心人物の一人です。高校生、地元の工務店さん、担当の先生も入ってもらい、現地調査から始まり、オンライン・ミーティングは何度も行った。費用は、白馬村の、宿泊業、スキー場の事業者さんたちが、寄付をしてくださいました。それから私たちも、断熱に関心のある全国の皆さんに呼びかけて寄付を集めました」
NPO法人上田市民エネルギー:暖かい家は、断熱から
「白馬高校村では、天井に断熱材を敷き詰めて、南側の窓を二重窓にし、その周りの壁にネオマ・フォームの板状の断熱材を入れた。その上から板を張る。廊下側も、窓や壁を断熱した。そのぐらいやるとすごく変わります。で、実際に、どのくらい効果があったのか。事前にサーモグラフィーで測ったり、表面温度計や室温計ではかったり、いくつかの方法で前と後を検証しています。2020年に白馬高校でもやったあと、2021年に上田高校でもやった。上田市の工務店さんを誘った。そしたら、これらの活動を知った、阿部守一長野県知事が応援してくださり、2020年度から県のプロジェクトになり予算がつきました」
身近な学校で実践!生徒発 気候危機突破プロジェクト【令和4年度実施】
 
「2021年12月にゼロカーボンシンポジウムでパネルディスカッションをやった時に、上田高校でワークショップを企画したリーダー格の高校生の隣に阿部守一知事に座ってもらった。高校生に『ワークショップ準備の苦労を知事に話すといいよ」と伝えておいたら、高校生が『準備がちょっと大変なんです」と話したところ、知事がマイクで『これは県の事業にしましょう』と宣言してくれた。それで2022年から予算がついて、毎年、県立高校で6か所ずつ、教室の断熱ワークショップが行われています。立ち会った先生方は、『我が家も断熱しようかな』っておっしゃいます。高校生がやると注目されてメディアもいっぱいくる。新聞とかテレビで流れると、視た方が、地元の工務店さんに断熱お願いしたという話は聞きました。そういう効果を狙ってます。もちろんです」