一般社団法人徳島地域エネルギー

豊岡さんの活動を知ったのは、『一般社団法人エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク』(略称=エネ経済会議)のセミナーから。

エネ経会議は、神奈川県小田原市にある蒲鉾「鈴廣」取締役相談役・鈴木悌介さんを中心に立ち上がった中小企業の経営者のネットワークで、「地域で再生可能エネルギーを中心としたエネルギーの自給体制をつくること」「賢いエネルギーの使い方を学び実践すること」を掲げている。

この会は3・11を契機に活動が始まり、小田原市全体での、行政・事業者・市民連携での再生可能エネルギーの取り組みが実施されている。公共施設への太陽光発電の設置や市民が出資しての地域電力会社の運営などが行われている。

「鈴廣」では、3・11を契機に、社屋をLED、太陽光、地下水の温度置換、建築資材に地元の木材の利用などを導入し、今、国が推進することとなったZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)を早くに手掛けている。
 
エネ経済会議では、全国の実践活動を行う人たちを招いてのノウハウ連携のセミナーも行っていて、登壇された一人が豊岡和美さんだった。木質バイオマスに力を入れている理由は、熱利用が自分たちの手でできる。地域の里山の木材が使える。地域でメンテナンスから管理まで全てを仕事に出来、雇用にも繋がるということからだ。

日本のエネルギー自給率は11・8%。海外から石油、化石、天然ガスなどを輸入している。GDP(国内総生産)が528兆円だった2015年、年間28兆円ものお金が海外に支払われている。熱エネルギーを木質バイオマスに転換すれば燃料費が地域で循環しCO2削減と森林保全もできるというわけだ。

そんな話から株式会社グリーンアース(石井雅士代表取締役)」を訪ねることとなった。

千葉市の家庭から出る年間6,179tの枝葉が資源になる
 
会社があるのは千葉県市川市。社員は全体で50名。それに協力会社から20~30名が参加している。営業は石井さんを含め7名。現場スタッフが20名。あとはプラントなどに関わるスタッフだ。売り上げは13億円。案内されたのは千葉市中央区生実町(おゆみちょう)にある「千葉キャピタルバイオマスセンター」。敷地は市の郊外で、周辺は緑豊かな森林に囲まれている。

施設の周辺は森に囲まれている

広大な敷地には、家庭からの枝葉、事業系の樹木などが運ばれてきて、それを仕分けする場所、粉砕する機械、粉砕したものをチップと細かいものは肥料や畜産の敷料に分別する機械などがある。隣接して「生実バイオ燃料株式会社」があり、チップ化されたものが乾燥されて、燃料として販売するという一連の流れになっている。2015年に2台の枝葉粉砕機を導入することから始まった。

2019年には風速53mの台風に見舞われ、保管庫等の壁が全てなぎ倒される事態に。周辺で倒木が出て、その処理も迫られるということに。そこから立て直し、現在の施設がある。

家庭から出る木の枝・刈り草・葉などをビニール袋から取り出す作業

リサイクル処理実績は3万7285t(2021年)。このうち「家庭系一般廃棄物(市委託)」は、6,179t。「産業廃棄物」6.331t。「事業系一般廃棄物」が2万4,774tとなっている。

「家庭系一般廃棄物のリサイクル処理」は、千葉市との連携で、庭からでる枝葉を回収したもので燃料や畜産資材に変わる。市内のゴミステーションから収集を委託業者が行い「千葉キャピタルバイマスセンター」に運ばれる。作業員によって袋から出されて手選別を行う。ビニールを取り除き電気式粉砕機で粉砕。これをマルチスターと呼ばれる振るい機にかけて大小に選別する。こうして枝葉生チップができる。細かいものは畜産資材として販売される。大きなものはチップ乾燥機で乾燥してエネルギー用として出荷される。これらの一連の工程の場所や機械が敷地内にある。
 

敷地内に運ばれてきた植物資源

千葉市から出る家庭の枯草、剪定枝、落葉など、これまでは、可燃ゴミとしてすべて燃やしていたものが、資源化されている。始まったのは2017年からだ。
「元々、千葉市は清掃工場を3工場で動かしていました。2工場体制にし可燃ゴミを減らしましょうということから始まりました。月に2回の収集ペース。 年々収集量は向上してきております。 2017年から区ことに順々に拡張していき、2018年から市全域で本格的に始まりました」と話すのは、千葉市環境局資源循環収集業務課課長の鴇田昌奈(ときた・まさな)さん。
千葉市の人口は97万8699人 (推計人口、2022年7月1日)。世帯数45万9,197世帯。ゴミステーション2万5000か所がある。2014年からゴミ袋の有料化を行っている。 

家庭からゴミステーションに排出される収集量の目標を7000tと掲げ、始まった。始める際に家庭から出るごみの組成調査が行われ、この中で剪定枝・落葉などの占める割合を 1万1600tと推定。市民の協力を得て収集できるのは6割として7000tという目標が立てられた。これに向けて資源物の出し方や目的やルールなどの啓発活動が同時に行われている。

「グリーンアースさんは千葉市内で家庭系の剪定枝の中間処理をする数少ない業者の一つ。 かつ、市で実施しているやり方が、苅り草・葉は所定の袋に詰める。木の枝は所定の太さと長さにして紐で束ねてゴミステーションに出していただくという形ですので、中間処理では破袋する作業が必要になってきます。となるとそれなりのスペースとか、破袋のための人員がかなり必要になってくる。グリーンアースさんはそうした設備や人員お持ちになっているということで、お願いしています。
 さらには隣に『生実バイオ燃料株式会社』という燃料チップの施設もあり、燃料にすることもできる。これまでグリーンアースさんの処理したものは畜産の敷料や農家の肥料にしているということだった。今後は燃料チップにもできる。千葉市内の木々を市内で消費するという地産地消の循環も期待できる。市民の皆さんから好評をいただいている。まだ可燃ごみで出される市民の方もいらっしゃいますので、できるだけ再資源化出来る剪定枝を出してくださいというお願いは継続して行っています」(鴇田さん)

市の連携で木々の循環体制がとられているのがわかる。
「千葉市家庭ごみの減量と出し方ガイドブック」
50ページあり、分別とリサイクルの仕組みが丁寧に書かれている。

 

枝葉の粉砕機・HG6000EⅡ

木材チップは電気を起こすエネルギー原料として販売されている
 
「千葉キャピタルバイオマスセンター」に集まるのは「家庭系一般廃棄物処理」のほかに「産業廃棄物処理」「事業系一般廃棄物処理」がある。
「「産業廃棄物処理」は、メガソーラー設置、 大型の商業施設の開発に伴う木の伐採などから出るものです。木の根も抜かないと建物も立てられませんしソーラーパネルなども貼り付けられません。開発の造成に伴う伐採、除根で出た材料が産業廃棄物の処分にあたる。伐るところから後始末の最後のリサクルまでを手がけています」とは、グリーンアースの石井雅士さん。

「事業系一般廃棄物」は造園屋さん等が持ち込んでくる千葉市内の公園、緑地、街路などで剪定された枝葉や除草された草などだ。
施設には枝葉粉砕機が2ラインある。552t/日の処理ができる。
破砕されたものはマルチスターという2連の高性能選別機で選別される。
「そろばんのように並んでいる車輪の上にチップ自体を載せると先に送って行く。車輪をゆっくりまわせば大きい物が落ち、早く回すと細かい物が落ちる装置。ふるいにかけチップを中間の50ミリの大きさのもの、それ以上の物は跳ねだされ、また戻して破砕する。細かいものと中くらいの物と分けている。細かいものは農業の土壌改良剤や畜産資材として牛・豚の敷材とか糞尿処理とか撹拌水分調整材に使われます。そこから農家が堆肥化し野菜農家に収めるという形になります」(石井さん)

隣の敷地にチップの感想施設である生実バイオ燃料株式会社を併設。50ミリのものは乾燥施設のボイラーの燃料に使われている。 ボイラーは国産だが乾燥機はドイツ製が使われている。

徳島地域エネルギーの豊岡和美さんが扱われているETAボイラー(オーストリア製)は乾燥したチップを使わなければいけない。ETAボイラーの利用を千葉県で進めるときに乾燥チップが燃料として必要となる。つまり千葉には燃料もたくさんあるし安心してETAを進められる、というわけだ。

マルチスター

マルチスターの裏側。そろばんのようになっていて回転しながら選別を行う

選別されて落ちてきたチップ

左は「乾燥前・枝・幹・樹木根・ミドルチップ20ミリから80ミリ。含水率50~33%。」右は「乾燥後・含水率15%」乾燥させることで燃料として使われる

グリーンアース代表取締役・石井雅士さん。事務所には施設解説のためのわかりやすいボードが用意してある

始まりは造園業。最初は剪定や造園で出る枝葉のリサイクルから
 
石井雅士さんが代表取締役を務めるグリーンアースは2001年に設立された。もともとは造園業が始まり。石井さんの親の家業は千葉県でも大手の公共事業の造園を手掛けていた。石井さんは市川市出身。家業の造園業に19歳から29歳まで勤めたあと29歳で独立した。植木の剪定枝のリサイクルからスタートした。きっかけは、お客さんから「植木屋さんは忙しいけど毎日枝葉のゴミをたくさん出しているね。使い道考えないとね」と言われたことだった。
「親に、造園業として枝葉のリサイクルを考える。土に還元し緑を増やして行くことをするよと。まだ草や木を燃やしている時代でした。『そんなことやって儲かるのかね。やっていけるのかね』と言われた。わからないけどやらないことにはどうにもならない。木や草を燃やすということは誰でもできる。リサイクルして土に還元し造園業や農業で使っていく。それを考えてみる。そこから始まったのがグリーンアースです」(石井さん)

市川市から許可を受け、これまでのようにクリーンセンター(清掃工場)ではなく、グリーンアースのリサイクルの施設に持って行くという流れが生まれた。次第に造園関係者にも関心が広がった。この仕組みが千葉市にも繋がることとなる。

「農業、造園業、 ガーデニングでも植物を育てるという意味では土壌改良剤は全部使える。枝葉や草を一年かけて土壌改良剤として作る。それをさらに市役所で販売していただく。そういう業務委託を作りました。これが市役所に好評で、市川市、佐倉市、君津市、習志野市、 我孫子市などの市役所でも枝葉のリサイクルに興味を持っていただきました。

最初に樹木をチップとして50ミリの大きさに加工します。小さな粉体のものから大きい物は50ミリのチップまで、まず一回作ります。作ったものを発酵させます。土に還して行くには好気性発酵が一番良いということで、一年から一年半かけて、何度も切り返しを行います。それから15ミリメッシュにかけてふるい、15ミリ以上のものは再度チップの山に種菌として戻します。 それを繰り返し土壌改良剤を作る。 市の方に視察で見てもらう。そこからいろんな市町村がやってほしいということが増えいきました。 最初は五人で始まりました。私は営業も現場も両方やりました。そして提案をさせていただきました」(石井さん)

細長い網にチップを入れた「ウッドチップフィルター」施設内の側溝の周りに敷かれて雨のときに流れてくるゴミや泥を防ぐ

そしてさまざまな植物関連の仕事を生み出す。

「マルチスプレッド 工法」。道路工事や宅地造成で出る枝葉や根を現場でチップに加工し法面の(のりめん)の斜面を緑化する工法。専用のマルチスプレッダーという機械があり、チップを吹きつけ集中豪雨やゲリラ豪雨から法面を保護するもの。千葉県成田市と和歌山県橋本市の商業施設で行われている。

「ウッドチップフィルター」。細長い網の中にチップを詰めU字溝(排水溝)の横に設置して大雨が降っても土砂の詰まりを防止し、泥水や濁水をろ過するというもの。
 地域にある木々、植物を上手く活用して肥料やエネルギーに転換する。地域資源を有効に使う。植物の総合リサイクルがグリーンアースの活動だ。しかし、まだまだ仕組みが理解されていない。石井さんたちは、各行政に具体的提案をなげかけ、施設の現場を視察してもらうことを積極的に行っている。今後の脱炭素と地域エネルギー活用では、もっとも注目の活動といえる。
■グリーンアース https://g-earth.co.jp/

この原稿は『月刊NOSAI』(全国農業共済協会)2022年9月号に掲載されたものを編集部の許可を得て転載したものです。