「道の駅ましこ」ができたのは2016年10月。益子駅より約4キロ。車で5分のところにある。建築費は13億7000万円。2010年、検討会議が始まり6年かけて生まれた。

「益子町は、1954年(昭和29年)に益子町、七井村、田野村が合併し益子町が誕生しています。町全体のランドマーク(目印)になるような施設をということで、最初は、農産物直売所が構想され、そこから発展。地域全体に繋がる道の駅構想がスタートしました。公募型プロポーザル(企画提案型)が実施され『マウントフジアーキテクツスタジオ』(設計家・原田真宏さん・麻魚さん主宰)が採択されました。建物は連なる山並みを表しています」と上田昌史さん。

木材が柱や壁、天井、店内の調度品、テーブルや店内のディスプレーの台などふんだん使われている。しかも天井が高く、天井まで届くガラス張りで、外の風景に溶け込むように設計されていて、自然の採光が室内全体に入り、そのことで心地よい空間が生まれている。

木材は町と県内産のもの。最長では16メートルの木材が使われている。工事前に1年間に建築資材材料の準備がされた。あらかじめ材料を見立てて、そこから資材を支給する形で作られた。木材の大きな加工ができるところが町内にない。地元の森林組合が山から木を切り出し、それを栃木県鹿沼市の製材加工業者に発注し集成材に加工。その最終仕上げ加工を、隣町の茂木町の加工業者で最終調整がされた。

壁の制作にあたっては左官職人・久住 有生(くすみ なおき)さんが招かれ、地元の若手職人が参加してのワークショップスタイルで、益子町の土を選び材料として使い創られた。

カウンターには益子焼の登り窯に使われるレンガ、商品収納の取っ手には益子焼、商品陳列棚は町内の工務店の制作、ゴミ箱は町内作家によるものなど、益子町の技術や素材が集積されている。

出入口と反対側がテラスとなっていて、そこに広場が広がり、その向こうに田園があり、さらに里山が見える。広場には太陽光の発電がされている。空調には管理がしやすいということからプロパンガスが利用されている。外灯には太陽光が使われている。

ユニークなのは、広場にはヤギ小屋があり、ヤギの「やっくん」が駅長となっている。このヤギは栃木県真岡市「真岡りす村ふれあいの里」で飼われていたもので、施設が閉園になったことから、引き取られて新天地での活動となったものだ。

裏側はテラスになっている。、ここで食事もできる。レンタサイクルがある。

地元木材が使われた天井。下はレストラン。天井がとても高い。

地元食材たっぷりの料理が出てくる①

地元食材たっぷりの料理が出てくる②

道の駅の裏の広場。外灯は太陽光が使われている。マルシェも開かれる。

町の焼き物店、飲食店、農家など地域全体を繋ぐ役割
 
「道の駅ましこ」は、町の南側にあり、町の玄関口という位置づけ。ここを基点に町にきてもらうという流れになっている。店内には、町の案内所、レストラン、加工品の販売、クラフトの展示販売、農産物直売所などがある。

現在、売上は7億円。動員76万人。社員は常勤10名。パート・アルバイト60名。

入って右側には総合案内所があり、そこでは移住・定住サポート、レンタサイクルの貸し出し、切手販売、観光案内、施設貸出、ポイントカード発行がある。

地元作家焼き物のの展示

切手は日本郵便に益子町と茨城県笠間市の共同申請し「かさましこ~兄弟産地が紡ぐ“焼き物語”~」日本遺産認定(2020年6月)記念オリジナルフレーム切手が発売されている。入口の前には、昔の丸型ポストが置いてある。益子町の思い出や感想を書いて出せるというい仕組みだ。

多目的スペースもあり借りることができる。使用料は1区画(小企画)1日1500円、1区画(大企画)1日3000円。1時間300円と、町民が気軽に使えるようになっている。

ポイントカードは、町内で買い物をすると特典やプレゼントがあったりポイントが付いたりというもの。
案内所の横には益子の焼き物作家のカップが並ぶ。作品は展示のみ。町内に窯元や焼き物店が多くあり、町に入り、散策してもらって購入してもらう仕組みになっている。そのための観光マップ、「益子陶芸美術館」の案内などがある。
さらに町全体を楽しめるようにツーリストやレンタサイクルで回れる「ましこポタリングマップ」、夜が楽しめる飲食店や宿泊施設のマップ「ヨルマシコモ、マタタノシー益子の夜マップー」、益子に多いカフェを巡る「まし子さんとめぐるましこのcafe」、益子に暮らす人たちと里山を紹介する「ましこ里山手帖」など、じつにきめ細やかなガイドも作成されている。

奥には、外の風景が見える「おもてなしカフェレストラン ましこのごはん」がある、益子町の素材を使ったランチメニュー、うどん、パスタ、スイーツが出てくる。外のテラスでも食事ができる。
「道の駅ましこ」には、駐車スペースが150台がある。30~40キロメートル圏の人が多く訪れる。土日になると東京・神奈川・千葉など首都圏からの人が多くやってくる。
正面から入って中央は、加工品やお土産品がある。それも地元の人たちが手掛けたものがメインで、顔写真や思いなどが紹介されている。なかには益子焼と上手く組み合わせた商品もある。

益子の人が手づくりした商品が人とともに紹介される①

益子の人が手づくりした商品が人とともに紹介される②

左手は農産物直売所になっている。出荷農家206名。手数料は野菜16%、加工20%。農産物の出荷は7時45分から8時45分。9時以降は自由に納品ができる。売れ残った場合は、翌日の納品時に引き取りとなっている。品質管理はスタッフと協議し行われいる。

売り場をみるとフラットになっていて天井も高い。しかも採光もよく明るく農産物が映えるようになっている。それぞれの農産部には、スタッフの描いた絵入りのディスプレーがあるなど、見やすく手に取りやすい工夫がされている。

彩もよく瑞々しい野菜が並んでいる。

直売所の作物にはスタッフ手書きの絵付きのディスプレーがある。

ディスプレーの一番前。入口から入ってすぐにあるのが西洋野菜。國政誠さんに手掛ける野菜だ。カリーノケール、スイスチャード、フェンネル、ビーツ、コールラビ、ベビーリーフ、マイクロトマト、ピーマン、キュウリ、アールスメロン、ナスなどをハウス20aで栽培している。

正面入り口に並んだ西洋野菜。少量多品目の品ぞろえが好評だ。

西洋野菜を販売する國政さん。

「今まで、農協出荷でナスを栽培していました。2021年から新しい作物にチャレンジし道の駅に出すようになりました。今は売るのが面白い。お客さんに直接話ができる」と國政さん。

國政さんは農業4代目。家族と3人暮らしだ。

現在、西洋野菜研究会メンバーは6名。2020年12月にスタートした。もともとのきっかけは、町が農業女性を集めたことだった。男性もいたほうがいいとなり、そこに西洋野菜の強い人がいたことから西洋野菜の取り組みが始まった。

「シェフも直接買いに来てくれる。道の駅から宅急便も出してもらえます。宇都宮市とか茨城県の方もみえます。平日に大量に買い付けに来るシェフもいます。それで平日の販売も見込めるようになりました。珍しいものがあると東京都内からも来る人もいて需要が見込めるようになった。西洋野菜が売れるとなって、前は奥のブースだったのが正面の前になりました(笑)。地元の飲食店とも仲良くなり買ってもらえるようになった。これも道の駅の繋がりです。飲食店との合同マルシェも開催されていて地元の人が集まる。そこにも参加させていただいています。テントで売って顔を知ってもらい、「この人が作っているだ」と西洋野菜のメンバーと会えて喜んでもらえる。役場の農政課も動いてくれ、ここには種を提供しているトキタ種苗も来てくれています」(國政さん)
農産物加工所を設け小ロット200から受注が好評
 
画期的なのは、道の駅とは別のところ、旧小学校跡地に作られたに加工所が2か所あることだ。そこで、さまざまな商品が生まれる。道の駅ができる前に作られた。「道の駅ましこ」を運営する第三セクター「株式会社ましこカンパニー」(社長・広田茂十郎(ひろたもじゅうろう)町長)と同じ経営。

1か所の加工所は住民向けの90㎡の小さい施設。利用料は1時間500円だが、住民は250円で使える。ここで加工をして道の駅で販売をする人もいる。

もともとは道の駅の商品「とろたまプリン」や「ましこピクルス」を製造していた。しかし手狭になったことから、一般向けに開放し、新たな加工所を創ることとなった。ちなみに「とろたまプリン」は、年間3万個が売れるヒット商品になっている。

もうひとつの加工所は、道の駅の商品を創るための施設。床面積約390平方メートル。総事業費約1億7千万円。同社副支配人兼加工部門マネジャーの高橋裕也(たかはしゆうや)さんと7名のスタッフで運営がされている。高橋さんは、元農協職員だった方だ。

施設には3つの役割があり、ひつとは、オリジナル商品を創る。ふたつめは、1.5次加工品の製造。町内の飲食店向けの農産物のピューレやコンポートなどの加工。みっつめは、受託制度。町内外を問わずに、小ロットの加工や商品を創る。商品企画からデザインまでを手掛ける。オプションで組み合わせまでができる。ニーズにあわせて受託するというもの。ジャム、瓶加工、ドレッシングなど。これまで受託されたものには、レトルトカレー、果実ソース、ピクルス、つくだ煮、ソース、セミドライの果実、菊芋チップス、鶏皮の焼いたもの、ペーストなどだ。画期的なのは、200個から引き受けてもらえるということだ。このため町内外の飲食店やレストランなどの依頼も多い。飲食店からコロナでお客が減ったので、日持ちがするものが欲しいとレトルトパウチの受注が増えた。町外の受注も増えて、結果的に益子町を知ってもらう機会にも繋がっている。
現在、売上は4000万円。目標は1億円だ。

加工所があることで生まれた多彩な地元産の加工品

左から山野井明夫取締役支配人、保園優子店長・物販部門マネージャー、上田昌史さん。

新規就農者受けいれも繋ぎ地域経済を創る
 
また農業生産部門があり、メロン、イチゴの自社生産も手掛けている。近くにハウスが2棟ある。3年前から取組み。農業担当1名と、地域起こし協力隊1名、パート1名で行っている。

「道の駅ましこ」では、旅行業の免許も取得していて、ツアーもできるようになっている。
宿泊施設「ましこ悠和館」をもっている。場所は道の駅から約7キロ離れた益子町益子にある。宿泊は、2019年にオープンした。もともと日光にあった旧南間ホテル別館(明治15年創業)もので、国指定登録有形文化財。益子町の飲食業者益子焼窯元㈱つかもと建物を譲りうけ移築して宿泊施設・ギャラリーとして使われていたもの。それを町に2016年寄贈されて、それをリノベーションしギャラリーと宿泊施設しての利用となった。1泊朝食付きで平日7500円、休前日8500円、ハイシーズン9000円となっている。

「ましこ悠和館」木造2階建て入母屋造りの建物。

2階は展示ギャラリーとなっている。

宿泊の施設。和風になっている。①

宿泊の施設。和風になっている。②

朝ご飯は、益子の器で地元産食材の朝食。夕食はついておらず、益子町に多くある飲食店で楽しんでもらうという趣向となっている。
「道の駅ましこ」の目の前にイチゴ農家のハウスがある。ここと提携しての予約制の摘み取り体験をしている。参加は予約制。値段は1300円から1500円(時期により値段が変動)。イチゴを摘みとりなかで好きなだけ食べてもらうというもの。

イチゴ農家は、ほかにも数十軒があり、紹介もされている。
「農家と連携した農業の収穫体験もできるようになっていて、山菜摘み、サツマイモ堀りなども手掛けてきました。ただし、今はコロナで中止をしています。今後の方向としては、町内外から通ってもらう、また収穫して調理しシェフが作る。またツアーに織り込み泊まって体験してもらうなどの仕組みがあるといいとおもっています」(上田さん)

さらに町では「ましこ農の学校」を開講した。道の駅の近く益子町上山に「和の家」という木造の洒落た研修施設と圃場を設けている。月2回で全24コマ。受講料は2万円。

{ましこ農の学校}ホームページより①

{ましこ農の学校}ホームページより②

「道具も用意しています。1期生は20名が参加しました。町外の人が多い。千葉・神奈川という方もいます。物件を探して将来クラフトビールを作りたいという人もいます」(上田さん)

カリキュラムは、次のようになっている。参加定員は10名(ただし家族1名まで同伴可能)。
(実習)
春・野菜の品目・品種の選定・肥料と農薬を上手に使う
夏・夏野菜の収穫・秋野菜の種まきと育苗管理
秋・町内農家の見学・パイプハウスの栽培を考える・小型農業機械の利用方法・マルシェ出店
冬・土づくりについて・農業資材の利用方法                     
(座学) 
春・器を使ったコ-ディネイト(写真の撮り方、SNS活用法)  
夏・野菜が育ついい土とは・少量多品目で稼ぐ
秋・加工品で稼ぐ・POP研修会 
冬・オンライン通販について・農地の賃借、取得について   
(令和5年4月~令和6年3月 授業は毎月2回/土日いずれかの9時~17時頃まで。授業料年20,000 円(20㎡の個人区画をご希望の方は1区画あたり+年5,000円をいただきます)  
         
道の駅での販売や加工、POPなどのノウハウがあることから、実習では野菜を生産するだけでなく、加工から販売までの仕組みを学び実践に繋ぐことができるという仕組みだ。また住まい探し、農地取得、研修先の紹介も行われ益子町農政課が連携している。担い手支援補助金もある。家賃補助、種子・種苗購入補助、農業機械等導入補助、獣害防止対策、資材購入などだ。
 
これらを観ていくと「道の駅ましこ」が地域全体の窓口であり暮らしそのものになっていることがわかり。実に個性的な存在ということができるだろう。
 
●参考サイト
国土交通省「道の駅案内」
益子町
道の駅 ましこ
ましこ悠和館
ましこ農の学校
註)この原稿は「月刊NOSAI」(全国農業共済協会)2023年3月号に掲載されたものを、編集部の許可を得て転載するものです。