―ありがとうございます。そのご縁から今回ご登壇いただけましたこと感謝いたします。では早速質問に入らせていただきますが、どうしてこのような事業の発想に至ったのでしょうか。
 
久米 私の会社は今18期目で、もともとは省エネ(脱炭素)に取り組んでいましたが、10年を節目に新規事業を立ち上げようとした時期に東日本大震災がありました。当時は省エネがほぼ当たり前という風潮で、その中「次は太陽光エネルギー含め、エネルギーの自給自足だ」「バッテリーでの蓄電だ」と思ったんです。そこで製品開発に取り組みだしたのが2016年(製品は2018年~)。この期間に熊本地震があり、震災が他人事に感じなくなったのと同時に、防災用備蓄蓄電が十分に整っていない事実に注目しまして、開発に取り組みました。

―2020年度からは「佐賀県命の72時間事業」にも取り組まれております。

久米 公民館で防災用に活用できることを念頭に国産の蓄電池を作ろうと思い始めました。やっていくうちに、当時の社会課題として在宅医療系の人達が使える国産蓄電池が無いという事実がわかりました。当時は海外のものが多く、それらは電源が安定していなく壊れる可能性がありました。また災害時には電源確保のために発電機の準備が求められるものの、民間で発電機を整えること自体が大変なこと。それら課題を国産蓄電池で解決できたらと思いました。

―そして防災時に必要な非常用電源にもなりうるポータブル蓄電池「E-SAFE RIKU」が生まれたのですね。この製品の特長をお教えください。
 
久米 防災用ポータブル蓄電池E-SAFE RIKUのコンセプト「いつも電気をそばに」の下、携帯・スマホの充電やテレビ・ラジオでの災害情報、空調や冷蔵庫などを想定し避難所におけるタイプを作っているんですが、その主な特徴は使いやすさもさることながら①圧倒的な保存性能(充電しておいたらずっと蓄電量が保存される)②毎日使っても13年使える充電回数③北海道から沖縄まで対応できる温度範囲の広さ…の3つです。
久米 他の製品と比べてどれほどの違いがあるかは、以下の図を見ていただけるとわかっていただけると思います。2年間で6%位しか蓄電量は減りません。他社のもので実験してみたら2か月ほどで蓄電量が0になってしまいました。そして、国産ではうち以外にはこのレベルの製品はありません。他は中国製ですので、完全国産となると私どもの製品のみになります。

それらの理由から私どもの製品が主に官公庁に販売実績があるのが現状です。
 
―充電しておいたらずっと蓄電量が保存されるということですが、その技術の開発でご苦労された点はございますか。
 
久米 自己放電が少ないマンガン酸のリチウムイオン電池を使ったことがポイントです。日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」(初代)で用いているものです。また、今使われている蓄電池はコントローラーを使うのですが、コントローラーは使っている間ずっと微弱に電気が流れてしまうため、コントローラーを使わない時は電気を完全にカットする、言うなればブレーカーのような機能を付けたこともポイントです。もともと減らない上にさらにカットするので、蓄電量が保存されるというわけです。
―その2つが特徴なのですね。この技術については特許を取られたのでしょうか。
 
久米 製品発売後に開発した技術のため、特許の取得が叶いませんでした(※特許は発売前に申請する必要がある)。ですが、マンガン酸を使っている電池のメーカーは私どもだけですので特許をとれずとも、結局は私どもだけの技術になっていますね。
 
事務局:なるほど。ところでマンガン酸自体は、放電はないのでしょうか。
 
久米 マンガン酸自体は内部抵抗が非常に少ない蓄電池です。ですがコンパクトにできなかった。昨今のEVの流れでコンパクト化という流れの中では「捨てられた電池」だったんです。ですから、新しいものを使っているわけではなく、もともとあったものを「こんな良いものを何で使わないの?」と使っているわけです。

事務局 言うなれば温故知新ですね。
 
久米 確かに。私どもはマンガン酸以外の電池は使っていません。マンガン酸もリチウムの一種ですが密度が低くコンパクトにできる性能が低かったため大きくなってしまうのですが、私どもは置いて使う商品に特化して開発したので、大きさは問題にはならなかったんですよね。例えば10㎏あろうとも家庭内で置いておく分には問題なかろう、と。
 
また、マンガン酸はレアメタルに入らないため、高価格な素材ではありませんが量産はできていないため現時点ではコストはやや高いですが、量産体制が整えばコストは安くなれます。
―医療機器の非常時電源というコンセプトについて、こちらで代表的な想定医療機器はどんなものなのでしょうか、その機器の消費電力はどの位なのでしょうか。
 
久米 ほぼ人工呼吸器のために使われています。成人ですとALS(筋萎縮性側索硬化症amyotrophic lateral sclerosis)にも。人工呼吸器に使われる電力は50wで、これは仮に停電しても約1日半、34時間ほどは維持できるとお考え下さい。台風などで停電するかもしれない時、電池があるかないかで助かる命があります。
 
―電気は本当に必要ですね。また、防災拠点用として想定しているのはスマホの充電、小さな照明でしょうか?交流出力にしている理由は普通の電気製品がそのまま使えることを想定しているからでしょうか?直流の出力はないのでしょうか?
 
久米 です。そのためほぼ交流です。
―ありがとうございます。その他、EVバイクやコンテナハウスについてもお教え願います。

久米 横の図を見ていただきたいのですが、この点線より上部分がリチウムイオン電池で、下が非イオン系。上に行けば行くほどコンパクトと思ってください。電気自動車や携帯などに使われるのが左上のニッケル系やニッケルコバルト系でコンパクトである一方発火の可能性があります。一方マンガン系はほとんど使われなかったのですが、こちらは発熱をしなかったり発火性が低いため安全ということでテスラなど大手も使いだしています。重いけど安全性があるからです。ですが使っているのはリンや鉄などのFe系(鉄系)。こちらは安い。ただひたすら重い。

我々はマンガン系で勝負をしようとしています。例えば下図などです。この挑戦の中での商品が「RIKU」です。
久米 それ以外ですと外部(他社)と組んで取り組むものも多く、例えば電気のないアフリカ地域で太陽光を付ける企業と組んだ事業などがあります。これは学校に登校し勉強している間に学校でポータブル電池に蓄電して、帰宅後、夜は家で使うというもの。
 
アフリカでは電気は無くても携帯は持っているんです。ですから夜に学校で充電したバッテリーを使いLEDランタンの光で夜を過ごし、かつ勉強をする、お父さんは携帯に充電する…そして朝まで電気を使い切ったら学校に行って授業を受けながら蓄電をするという、学区へ行く目的が蓄電するということでもある訳です。それで学校へ行けなかった子供でも学校へ行く動機ができる、つまりは教育プロジェクトなんです。このような取り組みにも参画しています。
久米 そのほか、EVバイクにも東大ベンチャー企業eMoBiと共に取り組んでいます。彼らは車体のレンタルのみだったので、そこの私たちの電池を付けて防災支援車両として展開しています。
このバイクには私どものポータブル電源の技術を搭載したコンセント付きバイクを普段はレンタルバイクとして使っていただき、災害時はこのバイクで電気をとってもらうという仕組みです。

実際にはキッチンカーやデリバリー用としての話も来ていますが、現在は車両の認可待ちの段階です。
―ありがとうございます。電動バイクへの利用も考えられているとのことですが、蓄電容量が900Whという容量の電池の場合、走行距離がどの位なのでしょうか。またRIKUにはソーラパネル3枚が付属品として付いてくるとのことですが、このパネルの出力はどの位なのでしょうか。

 久米 今のバイクのスペックでは最高速度50㎞で航続距離は80㎞というくらいです。ソーラーパネルは図を見ていただけると。最大出力は約40Wです。 
久米 さらにはソーラー発電システム付コンテナハウスを開発しました。例えば現場事務所のンテナハウスの上に太陽光パネルを取り付けて蓄電池を搭載した「持って運べるコンテナハウスス」です。これは実証済みで、実現に向けて動き出しています。

このコンテナハウスを持っていけば冷蔵庫もエアコンも必要な家電が使えますので、キャンピングカーに載せる話も出ていますが、現場事務所としての問い合わせの方が多いです。
現場事務所としてレンタルする話も届いており、コンテナハウスの横にEVの充電スポットをつけようとおもっていまして、太陽光で充電した余りをそこに貯める実験を今行っています。
片野 アフリカでの利用などできると良いですね!
 
久米 大手総合商社などと組めたら可能かもしれないですね。アフリカ現地にもっていったら即使えます。例えばキッチンカーとしてから揚げを扱う分にも十分対応できます。
 
―ちなみに何kWhくらい蓄電できるのでしょうか。
 
久米 載せる電池の数次第ではありますが、2kWhほどの太陽光を載せて8kWhほどの蓄電池を載せています。最大5kWは使えますので冷蔵庫やエア
コンなど同時で使うような通常の生活は十分賄えます。昼間は太陽光で対応し夜間は蓄電池で対応することを想定しています。

と言っても私たちは一般の個人住宅よりは災害時に対応できる量で提案させていただいています。例えばコンテナハウスに災害用備蓄用品を入れておき、災害時にはそれらを出して救護室としてご利用いただくとか。
 
事務局
 なるほど。このような商品やシステムがあれば、使う側(お客様)が自分で使い方を考えていきそうですね。
 
久米
 ですね。ですから、例えばコンテナハウスと太陽光、蓄電池を別売りにしてどこでもご利用いただけるようなタイプも考えています。
 
片野 日本ですと離島など島が多いので、そのような地域にもニーズがありそうですね。
 
久米 確かに。実際、国定公園に指定されている屋久島では自然保護の観点からEV車の使用や再生可能エネルギーの普及が進んでいるそうです。例えばそのような場所で受付や港などで私たちのコンテナハウスをご利用いただけたら良いなと思います。コンテナハウスはだいたい12畳ほどの広さがありますし、コンテナを連結すればより多くの電気がつかえますので。
片野 将来そんな住宅ができそうな気がしますね。

久米 ですね。未来については図を見ていただいたいのですが、私たちは、将来は買電はせず、大規模発電に頼らず、必要な分だけ作って貯める社会になると、オフグリッドソリューションが到来すると思っています。この流れは離島から進んでいくと思っていますし、個別住宅であれば、たとえば必要家電があるリビングだけ蓄電池にして災害が起きた際は家族全員がそのリビングに避難できますよという提案ができると思っています。
―その場合の販売価格は。
 
久米 太陽光もつけてセットで150~200万円ほどです。コンテナハウスもつけるとなるとそこに100万円ほど増えます。それくらいの予算感であれば「じゃあ、我が家の離れに欲しいわ」「田んぼの端に置いておきたいな」などという人もいらっしゃるかと。自宅に独立した電源として蓄電池のエリアがあれば災害時に対応できるので、この流れを進めていこうと考えています。
―ありがとうございます。ちなみに先にお話いただいたEVバイクはいかがでしょうか。

久米 EVバイクは現在のスペックで3人乗り(トゥクトゥク)で最大速度50㌔(新品の状態で㌔)。
EVバイクは普通自動車免許があれば運転できますし、車検も車庫証明も必要ありませんので維持費は安くつきます。で、駐輪場に太陽光パネルを3枚置いて充電(蓄電)いただければ8時間ほどで充電できます。つまり太陽光だけでバイクを賄えます。普段は社用車などでご利用いただき災害時には電源も取れるという利用方法も提案できたらと思っています。
―カートリッジのお話が出ましたが、2024年にはリチウムイオン電池工場設立計画など仕掛ける新しいビジネスの展望があると伺っております。また、現時点で自治体への累計販売台数が300台近くあり、その販売エリアも九州を基盤に北は北海道、南は沖縄と全国に展開中です。自治体での取り組みについてお教えください。
 
久米 私たちはEVバイクやコンテナハウスもさることながら、蓄電池自体をコアとして売りたいと思っています。工場もそのためです。そのためには資金も必要になりますので、現在模索中な部分ではありますが、将来的には電池を売ることを想定した計画を立てております。

自治体への取り組みについては自治体における防災での使い方は避難所での非常用電源、災害救助拠点の非常用電源、一次避難所の非常用電源、福祉避難所の非常用電源そして福祉の在宅医療などです。具体的な例を挙げますと、例えば佐賀市役所(佐賀県)は公民館ポータブル蓄電池整備事業として、市内の公民館の数(33)分のポータブル蓄電池を災害に備えて整備いただきました。日置市役所(鹿児島県)でも電源立地地域対策交付金事業として36台。このほかですと、B&G財団の「防災拠点の設置および災害時相互支援体制構築」事業としてご購入いただいた地域もあります。
ポータブルですから市内で災害があった地域に持ち運べて集めることでより多くの電池が使える利点がありますし、災害時以外では地域の夏祭りや選挙の集計作業時の電源として使うこともできます。
 
事務局 ポータブル電池自体は他社にもあるのでしょうか。
 
久米 あります。ですが保証の問題があります。私たちの商品は5年保証いたしますので、これが強みです。
 
片野 常時使いの可能性は。
 
久米 実は今年の取り組みとしてレンタル(リース)を検討しています。一括購入が難しいというお客様向けに月額でご利用いただける仕掛けつくりを構築中です。
 
事務局 常時蓄電池が使えればコストカットにもつながりそうですね。
 
久米 はい。コンテナハウスもそうですね。また、先に公民館と申しましたが、これは公民館の一室を想定しています。その一室を市民に開放し、そのクーラー代を蓄電池で賄っていただければ、と。
 
事務局 なるほど。つまりつかう側が使い道を考えるということですね。
 
久米
 はい。使いやすさを考えてリースも検討しています。
片野 公民館も常に(部屋など)使っているわけではないはずですから、使う時だけ電気も使えるようにするというのは良いですね。
 
久米 自治体への強みについては、先にお話しした保証に加えサポート体制があります。私たちのポータビル蓄電池は主に九州でご利用いただいておりますが、そこ含め全てのエリアにわが社の社員が直接伺って蓄電池の状態をチェックさせていただいています。ご利用者が今後増えてくることを考えて、リース会社と提携してサポート体制をより強化することも検討中です。
―久米様は佐賀県ベンチャー交流ネットワークの会長でもあり、「わくわくSAGAフェス2023」の企画などから人材や商社とのマッチングにも取り組まれています。ネットワーク構築を行っている想いをお聞かせください。
 
久米
 佐賀県ベンチャー高級ネットワークは県の団体です。佐賀県には農業など第一次産業含めモノづくりの企業が多いので、異業種交流も含め大阪や東京のバイヤーを呼ぶ展示会として「わくわくSAGAフェス2023」の企画を行っています。
 
事務局 ポータブル蓄電池の農業活用もありそうですね。
 
久米
 ですね。例えば栃木県にある株式会社誠和さんはビニールハウスのカーテンを自動巻き取りで行うカーテン装置を扱う会社ですが、電源に太陽光を用いる取組も行っています。山間部や養殖場にも蓄電池を活用できるのでは、とも思いますね。
 
事務局 有線ですとインフラを整える必要がありますがポータブルであればその必要がないですから、良いですね。
 
久米 はい。ポータブル蓄電池は学校に置くなどして、盗難被害をある程度防ぐこともできますし。
 
片野 蓄電池の利用は中国が先行している感もあります。先日別件で甘粛省に伺った時、現地で蓄電池が100個ほどつながっていて地域の方が夜に使っているのを見かけましてね。中国の3分の一はまだ電気のインフラが整っていませんので、ゆえに蓄電池がビジネスチャンスありと。
久米 私たちはエネルギーや環境問題を解決できる製品つくりを目指し、「こんなのがあったら良いよね」という商品をひとつずつ作ることをモットーとしています。そのひとつが蓄電池です。
 
その中で取り組んでいることが蓄電池など防災・蓄電事業、片野さんとも一緒に取り組んでいる照明・省エネ事業、そして創業からの研究開発支援事業です。開発事業としては「私たちの蓄電池を使ってこういうことをしてほしい」という問い合わせもすでにいただいています。

そして地球の電気がない未電化のエリア(下図の光がないエリア)には約10憶人ほどが暮らしていますし、先にお話ししたアフリカ・ベナンでの取り組みはこの未電化に対応したものです。国としても動き出しています。
【参考記事】https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF241S90U1A320C2000000/
久米 さらには特に新興国でのエネルギー消費は急激に増加しております。そのエネルギー消費を救うためにも自家発電をしていかなくては、と私は考えています。エネルギー資源とは産業・運輸・消費生活などに必要な動力の源のことですが、我々ケイエムテックはエネルギーこそ教育であり生活であり、命を救うのがエネルギーだと思っています。文化の象徴がエネルギーです。電気が灯せればその国・地域は豊かになると私は思っています。
 
久米 そのために何をすべきかというと、以下の3つかと。

①化石燃料は使わず
②大規模発電に頼らず
③必要な分だけ作って貯める


という3つからオフグリッドソリューションにしましょう、と提唱しています。
 
ですので、海外事業でもアフリカ・ベナンを皮切りに今後はインドなど他未電化地域にも取り組んでいく所存ですし、そのために必要なリチウム電池を自分たちで作るべき工場も建設計画を立てているわけです。
 
―ありがとうございます。最後に地域に根差して自ら電気を作ることでエネルギー問題に取り組んでいるエネ経会議の会員に向けてメッセージをお願いします。
 
久米 すでに皆様が取り組まれていることと思いますので、改めて言うのもですが、自分たちができることをする、ですね。私もしてまいります。
 
―久米様、本日はありがとうございました。もっと話を伺いたい!という会員の方はぜひ以下までお問い合わせくださいませ。

【問い合わせ先】
 
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FAX:0952-37-3418