藤村氏の著書「バイオマス 究極のゼロエミッション 循環社会を形成するためのバイオマス利用法 海象ブックレット」(海象社)より

片野 荏原製作所の藤村宏幸社長も風力に関心がありましたからね。その後御社は2009年にCOSMOグループの一員に。当時の日本はCO2削減を原子力でやろうとしていたのですが、2011年の東日本大震災が転換期に。ここから政府も本腰をいれてFIT・FIP制度(※)など再生可能エネルギーの制度づくりに取り組みだします。そこから再生可能エネルギーへの投資も進みだします。
※FIT・FIP制度とは
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/index.html

眞鍋 それらの社会背景や技術革新を経て、陸上風力と洋上風力の合計値は2021年末で458.1万kwです。洋上風力を商用として運営開始された事例は、今はありませんが、弊社も参画している日本で最初の本格的洋上風力発電を秋田県の秋田港及び能代港で運転を始めたところです。これから普及拡大が本格化していきます。
コスモエコパワーとしては2030年度には陸上風力100万kw、洋上風力発電150万kwを目指していきたいと思っております。

日本風力発電協会HPより抜粋https://jwpa.jp/information/6225/

事務局:コスモエコパワーのお取組みをお教えください

眞鍋 1997年の開始以来、同年の山形県庄内町を皮切りに、秋田県秋田市、茨城県神栖詩、千葉県銚子市、和歌山県広川町・日高川町、北海道小樽市などの田畑や海浜、牧場、山林、工場地帯といった様々の場所で風力発電事業を展開しています。発電電力については、約25年前から、単機容量400kwから3,300kwまで、8.25倍に大型化しています。
眞鍋 風力発電事業はまず立地調査し事業計画をたて、許認可取得を経て建設工事や風車据え付け工事を実施。そして発電所の運転と保守を行います。燃料費を必要としないため、減価償却費や人件費、メンテナンス費といった固定費が大半を占めます。それ故、事業者としては、運転後はメンテナンス力を強化して稼働率向上を目指します。

そのような風力発電ですが、今後の電源としての特徴としては、国のエネルギー政策である3つのE(Economic Efficiency【経済効率性】・Energy security【安定供給】・Environment【環境への適合】)と1つのS(Safety【安全性】)に加え、蓄電池・AI・IoT技術による再生可能エネルギー(風力)の需給調整力の大幅な向上の可能性による大量導入時代への突入が挙げられるでしょう。
片野 風力発電はもともと、オランダやデンマークなど欧州が先行していまして、地理的には平らな地域で始まっています。片や日本は、というと国土三分の二が山。欧州とそもそも立地条件が異なり、風車の羽根車等巨大なものを移動するのも大変なのです。ですが、洋上であれば陸上と比べ巨大な部品を運びやすい上に、そもそも風が強い。かつ、洋上風力の風車は大型化しています。風車の出力は、風速と羽の大きさで決まります。
 
事務局:ありがとうございます。洋上風力についてお教えください。

眞鍋 なぜ今洋上風力なのかといいますと、まず現在の世界の気候変動があります。今後の25年間に、現在と同じ量の二酸化炭素を排出し続けると、産業革命(18世紀半ば~19世紀初頭)前と比較して、世界の平均気温上昇は2℃を超えてしまうと予測されています。

ですから、国連を筆頭に世界的な大企業や金融機関がRE100(事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブ)や、SDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030年までの17の国際目
標)やESG投資(は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉。これらの非財務情報であるESG要素を考慮する投資を「ESG投資」と呼ぶ)などの取り組みに臨んでいます。
眞鍋 日本としても2020年に「第6次エネルギー基本計画」が策定され、ここで再エネ、風力の目標値が大幅に引き上げられ、「洋上風力は再エネ主力電源化の切り札」と位置付けられ、同年7月には第1回洋上風力官民協議会が開催されました。洋上風力発電は周囲を海に囲まれる日本ならではの大量導入や、風車の大型化などによるコスト低減、設備費用や関連作業への経済波及効果が期待できるとして再生可能エネルギーの主力電力化の切り札として注目されるようになります。
 
片野 太陽光や風力などの再生可能エネルギーはCO2を出さない。これが大事なことなのです。
事務局:地域で再生エネルギーに取り組む会員にとって地域で洋上風力に取り組むメリットについてお聞かせください。

眞鍋 洋上風力関連作業は輸送などの制約や効率性重視により、適地近傍に集積する傾向にありますので、地元を中心に地域への経済波及効果が高いのです。さらに、風力発電機は部品数が1万~3万点と多く、風力発電と地域企業が連携して取り組むことで地域での産業育成や誘致が期待でき、経済効果を地域で享受できます。
 
事実、欧米では経済波及効果が証明されておりますので、図をご覧ください。
事務局:地域経済と洋上風力の具体的な取り組みについて

眞鍋 四方を海に囲まれた日本は洋上風力のポテンシャルは高いのですが、官民が協力して取り組むには送電線の整備など連系枠の確保や、建設コストの高さによる国民負担の低減、漁業者との合意形成などといった課題があります。そもそも開発が遅れているため、2050年カーボンニュートラル及び2030年度の46%排出削減に向け、加速が必要です。国としても洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略「洋上風力産業ビジョン(第一次)」を打ち出し、送電線利用ルールを見直すなど明確に洋上風力に向けた取り組みを推進しています。
片野 海でのことなので、地域との合意形成と何より、地域の漁業との連携が必要になります。また陸上風力の場合は、地域住民にとっての音の問題が課題として時に挙がりますが、洋上ですとその問題もありません。
 
眞鍋 日本の漁業は、現在、漁業生産量の減少や就業者の減少に加え、そもそも気候変動で海水温が上昇しているという課題があります。一方、日本の洋上風力側も、海域での操業経験がないことや、地域での導入には漁業者との共存共栄が求められています。ですから双方の課題を解決するために協力体制の構築が必要です。漁場の環境に適した整備を行うことで安定的な漁獲を確保できますし、ICT(Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)の略。情報通信技術)を活用することで漁業のスマート産業化に、そして洋上風力事業に組むことで漁業者にとっても安定的な収入にもつながります。洋上風力を利用し防災・減災・カーボンニュートラルを進めることもでき、地域貢献につながります。そして、これからの地域の雇用にもつながります。
※ICTとは:https://flets-w.com/chienetta/technology/cb_otherl32.html
事務局:ありがとうございます。最後に会員に向けたメッセージをお願いいたします。

眞鍋 地域洋上風力もいずれ今以上の技術革新(浮体式等)が起きて可能性が広がります。特に年平均風速が高い北海道・東北等の日本海側は可能性があります。

なにより、地域の皆様のご理解がなくして、風力発電事業の開発は実現できませんので、地域企業の皆様にもぜひ、一緒に取り組んでいただけたらと思います。洋上風力事業は1の事業で約3,000憶円ほどの投資となりますので幅広く地域経済に貢献できる事業でもあります。例えば数万点の風車部品、を地域で作ることで地域経済に貢献できますし、さらに飲食や宿泊などにも経済波及効果が及び、様々な地域産業にも波及効果が及びます。
 
片野 洋上風力は規模・費用ともに大きな事業のため企業がコンソーシアムを組んで取り組んでいますが、その内容の半分は設置にかかる土木です。それ故、地域の関係者・住民との連携が大切です。


眞鍋 2050年に向けて、2022年6月、岸田内閣は「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」のなかでGX(グリーントランスフォーメーション。※)、を重点投資分野の一つに指定した。このなかで「今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現する」という方針を打ち出しました。
 
つまり今始まったばかりで、地域の経営者の皆様にとっても地域にとってもビジネス的にチャンスです。地域の特長を生かして省エネやバイオ、再生可能エネルギーなどからカーボンニューとラルに取り組んでいただきたいと思いますし、地域との合意形成があってこそ私たちも事業に取り組めますので、ぜひ一緒に取り組んでいただけたらと思います。
※GXとは、化石燃料ではなく太陽光発電などのクリーンエネルギーを利用し経済社会システムや産業構造を変革して温室効果ガスの排出削減と産業競争力向上の両立を目指す概念。カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と森林などによる温室効果ガスの吸収量を均衡させ排出量を実質ゼロにする」という地球温暖化対策の一種。カーボンニュートラルはGXの基軸となる施策の一つであり、GXはカーボンニュートラルを包含する概念である。
 
事務局 本日はありがとうございました。