―そもそも「商店街」という言葉に定義はあるのでしょうか。また、どれほどあるのでしょうか。

 三橋 商店街は個人・中小のお店が連なっていますが、実は定義がありません。皆様がいう商店街は場や通り、あるいは振興組合、商店会などと思います。つまり、「場」と「人的組織」でなりたつのが「商店街」です。

神奈川県小田原市の商店街風景

小田原を例にしますと、例えば中心部の栄町だけで商店街は15ほどあります。その商店街中での店の増減はありますが、中心市街地の商店街の数そのものはおそらく50年以上変わっていません。商店街自体は永続しているんですね。これは、商店街に人的要素と文化資源、地域資源があるためです。

数という意味では、日本の商業統計データ上では日本には商店街1万2600か所、都道府県別調査台帳ですと1万8000か所あるなど言われますが、商店街は一概に数字で把握できる存在ではありません。なぜなら、全国それぞれに立地条件も規模もことなります。小田原は小田原としてとらえていくことが必要だと思います。
さらに、近年の商店街は地球にやさしい商業空間として、また、観光資源としての面も注目されるようになっております。その土地土地固有の特質があり、小田原を例にとりましても、地域としての魅力がある商店街ですが、現時点では、その観光資源部分を十分には活かしきれていないように感じています。
 
事務局 観光資源としては重要な存在であるが、活かしているかが今一番の課題ということですね。
 
三橋 今後、取り組んでいく必要がある課題だと思います。

時にはシャッターが目立つ風景も…

―商店街と郊外店について。
事務局 私は地元の商店街が頭に浮かびますが、私の地域でも大型店に人が流れているように思います。ですので、地元の商店街はだんだんと店舗が減り、シャッターばかりになっている印象があります。

三橋 たしかにそうですね。そういう商店街が多い中、全国でも数パーセントは活気があります。数100か所ほどは。
 
事務局 郊外に大型店舗が出始めた頃、日本全体がアメリカ的な展開を意識していたと思います。その中で郊外の大型ショッピングモールも定着したのかと。アメリカ型の展開を意識するかヨーロッパ型の展開を意識するかで今の形態が変わってしまう。結局アメリカ型を意識したために現状があるように思います。
三橋 日本はアメリカ型ですね。アメリカはヨーロッパと異なり昔からのマーケットがないので、大型店を作らざるをえませんでした。ヨーロッパはそもそも市街地にマーケットがあるので、それを大切にしています。

日本は、1989年日米構造協議で自由化になった結果、それまで存在していた商店街、中小小売業者の保護政策がなくなりました。そのため郊外大型店が増え、結果的にCO2が増えました。
事務局 1980年代末からアメリカと協議が始まり、大型店舗規制がなくなったことからですね。日本にはそれまでに地域に密着した商店街があるにもかかわらず、自分たちが持っていた地域の良さに気が付かずにアメリカ的に郊外の大型店をつくってしまった。
 
三橋 そうですね。そもそも土地利用の問題があります。アメリカでは大型店舗は計画的に建設しています。住宅地域、商業地域などの特性で土地がゾーニングされ、それぞれの該当する用途地域として建設が計画的に行われています。
一方日本は、都市計画規制なしでどこにでも大型店を作ってしまいました。計画性なく郊外店を作ってしまった結果、商店街は衰退にむかったわけです。

京都・伏見大手筋商店街伏見商店街(アーケード架設前)

―エネルギー対策にも取り組む商店街の事例として三橋先生が注目されている商店街をお教えください。

三橋 まず、京都・伏見大手筋商店街伏見商店街です。京都都心から電車で10分くらいのところにある商店街で、その発祥は古く200~300年ほどの歴史があります。この商店街は昭和40年代ころから車が道路に入り込むようになってしまい、地域の方々が安心して買い物をすることがむつかしい状況になっていました。商店街の道路が幹線道路でありかつ拡張も都市計画決定されていたため車をすぐに排除=侵入禁止にすることが出来なかったのです。

京都・伏見大手筋商店街伏見商店街(現在)

そこで、商店街は奇策を講じてアーケードを作り、車を入れないようにしました。アーケードを設けて車を商店街から締め出したのは、当時は画期的なことでした。幹線道路にアーケードを作ること自体非常に少ない事例ですが、そのアーケードに太陽光パネルを設置し、そこで生まれた再生可能エネルギーを用いて販売(売電)を事業化しました。この取組は私が知る限り世界初と思います。
 

ソーラーアーケード(西側入口)

幹線道路のアーケード架設も画期的なら、その屋根に太陽光パネルを付けたのも画期的だったのです。当時の売電単価が非常に高く、設置にかかった費用を10年もかからず回収されたかと思いますが、近年は単価がどんどん下がっており、事業としては厳しい状況かもしれません。ですが、商店街の方々は再生エネルギーを活用していること・自分たちでエネルギーを作っていることに誇りを持たれております。

伏見大手筋商店街伏見商店街のソーラー発電量表示パネル

―中小零細企業による商店街がこのようにエネルギー事業に取り組まれていること、素晴らしい取組だと思います。他の地域でもあるのでしょうか。
 
三橋 ソーラーアーケードの取組は、他ですと北九州や東京・巣鴨などでも行っています。事例としてはまだそこまで多くはないかもしれませんが、最近は国としても商店街の再生エネルギー事業に補助金を出すようになりました。前述の巣鴨の商店街さんは国と東京都の補助金を活かして取り組んでいます。都内での再エネ事例としては、東京・下高井戸商店街があります。こちらは電力をバッテリーに貯えて、防災に備えようとしています。畳4分の1ほどのサイズのパネルを色々なところに置く取組です。10年ほど前の街路整備の際から取り組んでおられます。

東京・原宿表参道欅会商店街(表参道ヒルズ)

三橋 もうひとつ、東京・原宿表参道欅会商店街の取組をご紹介します。こちらは明治神宮の参道がもととなった商店街です。参道の欅は戦前からあり、もともと広い場所です。現在の商店街になってからまだ30年ほどでして、その前は原宿シャンゼリゼ会といいました。今から20年ほど前に山本正旺氏が理事長になった際、先人が作った欅や参道を活かそうという想いから、それまでの会(任意団体)から振興組合にして、名称も今の名に替えられました。かつ理事長自身はそこでガソリンスタンドを経営していましたが、ガソリンは環境に悪いということでガソリンスタンドをやめてビルに。

さらに、日本の伝統文化資源をいかした商店街にしよう、環境を重視しようということで、2001年、まちづくりの柱のひとつとして「エコアベニュー宣言」をだされました。ここで「太陽光や風力発電などのクリーンエネルギーの活用」「ボランティア活動の推進」などが明記されました。表参道はそもそも町内会や自治体がしっかりしており、地元育ちが多いので、地元のためになる取組にボランティア参加を促せたのです。エネルギーの取組としては小さなソーラーパネルを設置し、それから蓄電池にしていくなど取り組まれているようです。
また1964年の東京五輪まで存在した米軍の住宅施設「ワシントンハイツ」が返還されオリンピック選手村として開放された環境変化対応、その地域資源の活用があります。以前の表参道はワシントンハイツ住人向けの土産品店舗が並んでいました。「ワシントンハイツ」の返還後は異国情緒がただよう街の雰囲気や明治神宮といった地域文化との関わりも大切にしてまちづくりを行っていきました。さらに地域のブランディングにあわせた海外ブランドも並ぶようになった結果、「女性が一番行きたい街」1位にも輝く商店街になりました。
―商店街が取り組むエネルギー対策としては何があります。
 
三橋 商店街が取り組むものでも最も多いのがLED化です。過去10年ほど、行政補助金の下で商店街の街路灯のLED化が相当進んでおります。蛍光灯や白熱灯だと月100万円はかかる電気代がLEDにすることで3分の1、4分の1になった事例も多く報告されています。
 
事務局 行政が働きかけているということでしょうか?
 
三橋 はい。それに加え、商店街間での情報交流で「あそこもLED化しているのなら」と広がった面もあります。

ハッピーロード大山商店街

三橋 商店街の環境取り組みとしては、まず、商店街が電気代を負担する関係でのLED化。そして、大手企業とのCO2の排出権取引があります。後者は東京・大山の「ハッピーロード大山商店街」の事例があります。大山は2009年にはアーケードの照明をLED化し、大手企業との CO2排出権取引をはじめ、2015年には電力自由化を受け、商店街振興組合の100%出資子会社「まちづくり大山みらい」で電気の代理販売を行う「大山ハッピーでんき」を開始しています。
―商店街のエネルギー施策に今後必要なことは。
 
三橋 商店街の環境意識、ゼロカーボンなどへの意識は、もしかすると現在はそこまで高くないかもしれません。皆様ご自身の商売にまず意識を向ける必要がありますので。ですから、行政が商店街に働きかけたり、エネルギーなんでも相談所さんのようにエネルギーに詳しい専門家が商店街に来ていただき話をするなどが大切かと思います。商店街自身が、自分たちが地球にやさしい空間であるという意識をもつ必要がありますし、その意識を持っていただけるよう働きかける必要があります。これからの日本社会はエネルギー多消費型のライフスタイルを見直し、エネルギー資源を大切にする暮らしへと転換を図る必要があります。
 
商店街をはじめまちづくりもしかり。とはいえ、課題は地域間のネットワークかとも思います。各地で中心市街地活性化の取組やエネルギーの取組はありますが、地域の商業者間のまとまりや連携が弱いように思います。商店街は一国一城の主の集まりですから、地域資源を活用して中心市街地を良くするための横断的組織やネットワークが必要です。

例えば、小田原市は、環境省が全国の自治体を対象に募集する「脱炭素先行地域」環境省の先行事例に選ばれています。このような地域だからこそ、中心市街地・商店街との連携に期待します。
【参考資料】
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/field/envi/zerocarbon/topics/ki-20220418.html
―ネットワークづくりに必要なことは。
 
三橋 ステークホルダーとの連携がないまま行政が地域と取り組むというより、行政と地域が一緒になって継続して取り組んでほしいと思います。そうやって事業を進める過程の中でキーパーソンが生まれます。そのキーパーソンを地域のみんなで盛り上げていただけたらと。
 
事務局 うまくいった地域は最初から中心人物がいるのではなく、事業をやっていく中で生まれるのですね。
 
三橋 はい。そのキーパーソンをみんなが応援すればいい。そうしていく中で、そのキーパーソンソンが地域の事業を示すアイコンになります。外から有識者を呼んでも、その有識者は契約期間が終われば去ってしまいますが、地域のキーパーソンは地域とともにありますので、永続性があります。
―最後に。地域でエネルギー問題に取り組む事業者にアドバイスをお願いします。
三橋 地域でやる気ある人を、行政を巻きこみながら取り込んでいくことが大切です。商店街だけで考えるのではなく、地域の環境系NPOなどの商店街を取り巻く人々を巻き込んで一緒に考えていく流れが出来てほしいと思います。そもそも行政も中心市街地についても計画を立てておられるのですから、行政も商店街と共に地域の課題に取り組んでいくことが大切です。
 
商店街は地域ごとに規模は様々ですが、地域の価値向上の一環としてエネルギーにも取り組んでいくことは、地球にやさしい商業施設として大切なことだと思います。
 
―ゼロカーボン社会に向けた連携が今こそ必要ですね。本日はありがとうございました。