―シンポジウムの趣旨は。
 
山崎 このシンポジウムは国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)のJST-RISTEX 政策のための科学プログラム「木質バイオマス熱エネルギーと地域通貨の活用による環境循環と社会共生に向けた政策提案」プロジェクトの研究開発の一環で行うものです。
 
戦後の高度経済成長下での木材自由化と薪炭から炭素リッチな化石系エネルギーへの転換とともに森林のローカル・コモンズ(地域資源の集団的・共同的な所有と利用および保全維持管理)が衰え、森林資源の荒廃が進み地域経済も衰退してきました。
 
しかし近年、チップやペレット燃料利用やガス化熱電併給技術によるエネルギーと大型木質建造利用などが広がりつつある時代となりました。それらにより地域の森林資源を活用する脱炭素と地域づくりを目指し、地域金融と地域通貨による川上から川下までの地域循環型システムを促進する新たな社会・経済的取組みが始まっています。その取組には住民と自治体が一体となり、さらに地域外の産官学とも協業、実践が増え、それがニューコモンズ形成への繋がる兆しともなっています。事例として、岩手県紫波町、群馬県上野村、岐阜県高山市、島根県津和野町、愛媛県内子町、高知県梼原町、宮崎県串間市などが挙げられます。
 
シンポジゥムでは、「ペレット生産とガス化熱電併給の視察と代表的事例の発表、脱炭素まちづくり、地域経済循環と地域通貨などによる地域循環共生圏でのシナジー効果」の加速化を目指し、「企業、自治体、市民、地域外の大学や企業」が協業するニューコモンズについて報告、討議致します。

―ありがとうございます。内子町を会場に選ばれたのには何か理由があるのでしょうか。
山崎
 先の趣旨でもお話しておりますが、竹林先生の発案で、内子町は先進事例の地域であり、トップランナーの地域であることからお願いしました。地域で木質バイオマスに取り組む内藤さんや地域の皆様と共に、地域から全国に発信するシンポジウムにするべく、内子町で開催することにしたのです。
 
内子町は内藤さんをリーダーとして木質バイオマスに取り組んでおり、私はバイオマスを使った地域創生の取り組みとして注目しています。また、第二発電所が今秋にスタートするとのことでしたので、その時期に合わせて地域から全国に発信すると同時に、地域内にも発信をしたいという狙いもあります。

内藤 私の会社(内藤鋼業)は、木材の機材(木材加工機械や刃物)を扱って現在で62年目になります。2000年のダイオキシン排出規制で焼却炉を使ってはダメと言う話になり、国の政策としても樹を削った後に残ったものを燃やすことも厳しいということになった時、何ができるかと考えました。そして木質ペレットを木くずから作ることを始めました。2006年当初、順調なスタートではなく苦労もしましたが、そんな頃に、娘が通う小学校でペレットストーブを県内で初めて使うというニュースを見ました。早速見に行きましたら、ペレットの作り方も校内に展示してありましたので、行政側の担当者にヒアリングに伺いました。すると、内子は森林資源を使い、ペレットを使った施策(バイオマスタウン構想)を町として考えているというので、「自分もです」と。そもそも内子町はドイツ・ローテンブルグと姉妹都市です。内子の人間はローテンブルグで環境施策も学んでおり、その結果、ペレットボイラーやストーブなどペレットを推進する方向になったのです。

【参考資料】
■内子町バイオマスタウン構想
https://www.town.uchiko.ehime.jp/soshiki/10/baiomasutaunnkousou.html

内藤 氏の取り組み(引用/みんな電力)

―内藤 様の取り組みをお教えください。
 
内藤
 2011年に現在のペレット工場を作り、2000tのペレットを作っております。これは町の公共施設や幼稚園など民間、トマトやいちごなどを栽培する農業用ハウスの暖房にご利用いただいております。具体的には温室のボイラーを重油から木質ペレットボイラーに切り替えてくださったり、幼稚園などでペレットボイラーで床暖房が導入されたのです。油(石油)の価格が安くなるとペレットから油に代わる人もいますが、季節無関係に年中発電してご利用いただける仕組みづくりをペレットで構築しようと思いました。
 
熱源は冬は売れますが、それ以外ではコンスタントには売れません。ですからペレットから電気をということで発電機を設置するべく、地域の銀行などにアプローチを検討していた時期に、今回のシンポジウムにもつながる山崎氏や竹林先生と知り合いました。竹林先生からはシン・エナジー様をご紹介いただき、それがきっかけで2018年、内子に、四国で初めてバイオマスの会社が生まれました。地元材を利用する小型高効率木質バイオマス発電所です。
 
今年は町内の龍王地区で「内子龍王バイオマス発電所」が着工しました。私達が製造する木質ペレットを使った発電とともに、副産物として発生する熱を温浴施設とフィットネスクラブに供給するコジェネプラントが建設される計画で、内子町におけるバイオマス発電の横展開が始まっています。これらが10月から動こうとしていることも、今回のシンポジウムに内子町を選んでいただいた理由のひとつでもあります。
【参考情報】
■内子町で木質ペレットによるバイオマス発電、1MWながら効率30%超
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/news/16/101911604/
■「内子バイオマス発電所」5月10日に起工式
四国初!地元材を利用する小型高効率木質バイオマス発電所、今秋稼働へ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000025041.html
■龍王バイオマス発電所工事着工のお知らせ
http://naito-kogyo.co.jp/
■愛媛県内子町において地域連携型の「内子龍王バイオマス発電所」の建設に着手
~地元産材を活用した木造発電所から生み出される熱を地域の交流施設で有効活用(熱電併給)~
https://www.takenaka.co.jp/news/2022/04/05/index.html
―シンポジウムの開催地・内子町の取り組み以外にも、シンポジウムで伝えたいことは?

山崎 『森林資源を活かしたグリーンリカバリー 地域循環共生、新しいコモンズの構築』(竹林 征雄・山崎 慶太・谷渕 庸次・東郷 佳朗/化学工業日報社/2021)の内容を紹介することも目指しています。この本の解説では、「私たちが暮らす日本は、自給できる貴重な燃料資源である森林を有しています。植林して手入れすれば永遠に再生でき、ペレット化して室内で使う、ガス化発電で集落の電気とお湯をまかなうなど、エネルギー利用効率の高い新技術が、今世紀になってどんどん進化していることを、都会に住んでいると実感できないのかもしれません。

 
山崎 木の用途は建材や土木構造物だけでなく新素材の原料としても、どんどん拡大しています。「使った後に最後は燃やせる、究極のエコ素材・木材を産む宝の山が、日本の森林なのです。化石燃料に頼り、地球を温暖化させ続ける都会と、水と食料と燃料をいざというときには自給できる田舎、どちらも選べる日本になり、環境を考える、身の回りのできるところから実践してみませんか。本書はそんな、豊かな世界への扉なのです。」と記させていただきました。
 
また、この本では森林資源の社会的活用とコモンズについても触れました。コモンズとは地域資源の集団的・共同的な所有と利用および保全維持管理のこと。内藤さんと内子町森林組合さんが内子でされている新しい管理利用の取り組みはまさに先端的な試みであることをこの本にも触れつつ伝えたいのです。
山崎 内子町は人口15000人の町ですが、文化的にも非常に優れた、文化資源がある町です。江戸末期から明治時代にかけての面影が残る「八日市・護国の町並み」、創建100年以上を誇る芝居小屋「内子座」、木蝋産業を今に伝える「木蝋資料館 上芳我邸」などがあります。内子座は町民の皆さまが100年近く支えているほか、屋根付きの木造橋(田丸橋など)も地域で支えていることでも知られており、森林資源による文化資源の紹介もしたいと思っています。

私はコモンズには森林資源と、文化資源双方の面があると思っています。これは掘り下げて研究し、いずれは研究発表できたらと思います。
―コモンズについてもシンポジウムで語り合うということですね。内子町の森林資源の管理についてもう少しお聞かせください。
 
山崎
 これも本に記載しておりますが、内子町そして内藤さんは、発電に用いる木材は半径20キロメートル圏内から供給することを原則とされています。材の地産地消を実現されています。1.1メガワットの発電所の規模に見合う量1万tで木材を集めておられ、そして発電をされていることは高く評価される点です。

(出典)環境情報科学 50-2 2021 105ページより抜粋 木質バイオマスエネルギーを活用した持続可能な地域循環システムを促進する社会的・経済的取組 山崎慶太・横田樹広・東郷佳朗・川瀬博・豊田知世・竹林征雄

―年間1万t?
 
内藤 はい。2万tでは多すぎまして。森林組合さんと相談し、森林組合さんが通常の木を取りに行く際に未利用材も取っていただき、それを買い取る形です。地域柄木は多いので、余った木(未利用材)を松山の発電所に買ってもらっていましたが、今は第2発電所(内子龍王バイオマス発電所)で用いています。そもそも、わたしたちが用いる未利用材の量は林業事業者さんと内子町森林組合さんとの話し合いで決まります。当初は3事業者ほどが私達に未利用材を出してもいいよ、と話してくださいました。お渡しする金額を値上げすることで3から14者になり、彼らも収入になるなら、と業務効率を上げてくださったんです。

山に入る人間は入る機会・時間は同じです。その中で効率を上げて、山で仕分けして同じ作業時間で市場に出す木・私達に出す木(未利用材)を用意くださったおかげで、私達にも届く未利用材が増えました。ペレットの原料を値上げした分は、年間の発電所の売り上げでバランスを取るようにしています。

(出典)環境情報科学 50-2 2021 108ページより抜粋 木質バイオマスエネルギーを活用した持続可能な地域循環システムを促進する社会的・経済的取組 山崎慶太・横田樹広・東郷佳朗・川瀬博・豊田知世・竹掬征雄

―地域主導の発電所と他のバイオマス発電所の違うところはどこでしょうか。
 
山崎 先の本『森林資源を活かしたグリーンリカバリー 地域循環共生、新しいコモンズの構築』でも竹林先生が触れておりますが、地域で考える場合のポイントとして融資返済は地域金融機関であることがあります。地域の方半数以上の投資をできる規模であることも大きなポイントです。地域金融機関さんの存在はとても大切です。
これは243ページに詳しくありますので図を紹介させていただきます。インタビューの最初に内子町がトップランナーであるとお話しましたが、この点も含めてトップランナーなのです。

 
山崎 一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所所長の藤山浩先生たちによる『「循環型経済」をつくる』(藤山浩・有田昭一郎・豊田知世/農山漁村文化協会/2018)もおすすめです。「バケツの穴をふさぐ」という言葉があります。地域からの所得流出の深刻な実態を指す言葉ですが、この穴から水を漏らさないことが大切。この本でも第4章でエネルギーの地産地消で所得を取り戻す取り組みとして、木質バイオマスの活用と地域経済循環について紹介されております。
―ありがとうございます。内藤様のお取組みでは、今まで行政の補助金を活用されたことはあるのでしょうか?
 
内藤 2011年に施設を建てた際には林野庁のバイオマス利用促進に係る交付金を用いて、半額補助いただきました。内子町さんからは費用ではなく、場所のご協力をいただき、森林組合の隣の土地を借りることができました。家賃を町にお支払いしています。発電所を設立した際は補助金は用いておりません。

(出典)環境情報科学 50-2 2021 106ページより抜粋 木質バイオマスエネルギーを活用した持続可能な地域循環システムを促進する社会的・経済的取組 山崎慶太・横田樹広・東郷佳朗・川瀬博・豊田知世・竹掬征雄

―ありがとうございます。設立から地域で経済を回すことを意識されておられた、その未利用材を資源に地域にお金を残す取り組みについてお教えください。
 
山崎
 内子町の「木こり市場プロジェクト」をまず紹介します。これはバイオマスタウン構想の一環として森林環境整備の推進、木材活用の促進、地域産業の活性化をするため、これまで山に残されていた価値の低い未利用材を集めて、木質バイオマス燃料の製造会社などに売却。木材の出荷者には現金と地域通貨「ドン券」で代金を支払い、町内のお店で地域通貨を使用してもらうことで、地域消費にもつなげる仕組みです。

内藤 未利用材を町役場が運営する「木こり市場」で集め、私達内藤鋼業がペレットを製造販売しています。「木こり市場」では地元山林の間伐材などの未利用材が7500円/1トンで買い取られ、持ち込んだ人の「木こり通帳」に「出荷」として記録されます。おろしたいときは、3000円分は地元商店などで使える「地域通貨券」で、残りは現金(県や町の補助)で支払われる仕組みです。ですので、結果として私達の取組が町のプロジェクトに協力できているのかな、と思います。
【参考資料】
■木こり市場プロジェクト
https://www.town.uchiko.ehime.jp/soshiki/8/134190.html
―ありがとうございます。エネルギーは電気だけではなく熱もあります。木質ペレットまたは木質チップを燃料とするコンパクトなCHP(熱電併給システム)についてはいかがでしょうか。
 
内藤
 CHPは電気1に対し熱2が出ます。ですが、熱利用は日本ではお金になりません。今の日本では電気しかお金にならないのが現状です。そして、多くのCHPプラントが求める燃料規格は含水率18%以下ですが、このウッドチップ、欧州では売っていますが日本では入手困難かつ、作るのが難しいのです。規格外のウッドチップを投入すると、CHPプラントは安定稼働しません。日本ではペレットはあの形を作るまでに水分8パーセントなので、18%はクリアしているのですが、その次の段階での比重や硬さの課題をクリアすれば18%以下のものは作れると思います。とはいえ特に杉は難しいですね(松や檜に比べて)。私達は発電所を試運転しつつペレットも作る中、実際に使えるペレットを作れるまでに半年はかかっています。うちの機械は4週間連続運転ができるものなのですが1週間前後でトラブルが起きました。それを調整して発電にもっていくのに半年かかったということです。
 
今でも1時間ごと定期的にペレットのサンプルを取って含水率などを管理しています。このデータはシン・エナジー社様や三洋貿易様とネット管理をしています。燃料は絶えず安定していないと安定してCHPは動きません。林野庁の調査などで国内CHP発電所は7割ほどがうまくいっていないなどとの報告も見たことがありますが、これは燃料の問題がほとんどだと思います。例えばの話として、ハイオク専用の車に別のオイルを入れたらうまくいかないじゃないですか。
―ハイオク仕様の車に軽油を入れるようなことですね(苦笑)その問題を横において「だからCHPはダメだ」「CHPは問題だ」と短絡的に話をする人がいるわけですね。
 
内藤
 だと思います。うちは結果的に全国で数少ない成功例とみられていますね(※内藤鋼業ではCHPは6台保有しているとのこと)。
 
―その仕様のものにあった燃料をくべてやれ、という非常に当たり前の話のはずですのに、そういうチップを供給できるところがまだまだ少ないというところに原因があると思いますがいかがでしょうか。

内藤 その通りだと思います。まずチップの世界で18%のラインを維持する必要があると思います。もともとチップは水分量がマチマチです。杉は50~60%はざらですし、檜は40~30%くらいです。これらを混ぜて使うと問題に。原料は今後も課題になると思います。
―ありがとうございます。地域循環に話を戻しまして、地域での雇用についてお伺いいたします。
 
内藤
 メンテナンスなど24時間2人体制で臨んでいますが、雇用という意味では発電所やペレット工場で雇用は生まれていますね。

山崎 発電所よりペレット工場の方が雇用は多いかと思います。ペレットをたくさん使う程雇用も増えます。こうして地域循環が出来ているわけです。
 
―ペレットを作ると地域活性にもなる、ということですね。

 
山崎 はい。ペレットで雇用が生まれます。が、一方でペレットを作ることで二酸化炭素も生まれます。生まれる電力の1割ほどの量は二酸化炭素が出来てしまうのも事実です。
 
―日本ではエネルギー=電気と思われがちですが、実は6割は熱としてのエネルギーです。この認知が低いことについてご意見などお伺いしたいです。
 
内藤 熱も電気と同じく、FIT制度(固定価格買取制度)が必要かと。そうすれば熱が必要なところに施設を隣接できます。
 
山崎 熱は電気の2倍生まれます。これをうまく使うのが今後の課題。内藤さんの事例(ペレット工場と発電所をセットで動かす・熱を隣接する温泉やスポーツ施設で利用する)は先進事例ではないでしょうか。

シンポジウムチラシより

―熱を使うところに森林資源がない、あるいは森林資源があっても熱を使うところがないという問題は今後課題になると思います。
 
山崎
 地域循環を今こそ考えたいですね。そのためのシンポジウムです。
 
内藤 私自身の想いとしては、将来的には内子町を電気代タダの町にしたい。町内の世帯数の電気をうちが作り出す。「電気代タダの街」と広く認知されたら内子町に移住してくる人もでてくるかと思います。人が増えれば地域の経済も回ります。私は町の人口減少をどうにか止め、内子に住みたいと思う人を増やしたいのです。そのための魅力として「電気代タダ」を掲げたいと思っています。
―エネルギーは地域活性とつながりますよね。エネルギー資源を地域活性にもっと生かしていく、そのような取り組みが今後増えていくことを期待します。
 
山崎
 再生エネルギーは出口が重要です。私自身は「再エネとレジリエンス」を研究のテーマの一つに掲げています。再エネをレジリエンスにどう絡めていくのか、が課題です。バイオマスの場合は熱も使えます。バイオマスを電力インフラ・システムを強靱にする電力レジリエンスに使えれば国もより補助しやすくなるのではないでしょうか。
 
―今後、皆様のご研究が地域でさらに活かせること、そのお手伝いを我々もしていけたらと思います。本日はありがとうございました。