金丸 「土佐MBA」は、2012年にスタート。5大学連携で金融機関とも連携する協定を結んでいます。一般の人からビジネスマン、事業者まで、学ぶ意思があればだれでも参加できます。必要に応じて講座を増やし充実させてきた結果、大学以上の充実ぶりではないかと思えるほどです。

その結果、これまでの受講生は2万8000名に。入門講座(無料)、基礎講座(5300円)、応用講座(1講座800円から3000円)までと受講しやすい価格になっていると同時に、講座が400もあり、自分のスキルに合わせて選択ができ、かつ、段階を追ってステップアップができるようになっています。
 結果、移住者は年々増え、2012年は121組225人だったのが、2018年には、943組1325名にまでなっています。起業もこれまで43件。県外への売り上げも伸びています。
■高知県の「土佐MBA
 
 

「もくもく手づくりファーム」のウインナー体験教室

「もくもく手づくりファーム」のブッフェレストラン

このほか、地方創生で注目しているのは、農業法人や農業団体の動きです。
三重県伊賀市の「伊賀の里モクモク手づくりファーム」の場合、ゼロから作るウィンナの体験(2900円)が大好評となり、国内外から10万人が訪れるようになっています。体験のみならず通販も好評で現在は年間10億円の売上になり、従業員も100人以上になり、地域活性に繋がっています。
また、大分県の「大分大山町農業協同組合」は、組合員870人ほどの小さな未合併農協だが、次々と新しい事業を打ち出し、農協経営の新機軸を打ち出しています。国の農業政策に頼らずに、イスラエルでノウハウを学び、農協システムに頼らずに独自で販売ルートを開発しています。それに加え、山間という地理を逆手に取り、山に遊びに来たい人のために地域のお母さんたちの手作り料理が並ぶブッフェレストランを展開。独自の取組で、人口3000人の地域で年間50億円の売上を産み出しています。こちらも地域活性に繋がっている事例です。

大山農協のレストラン「木の花ガルテン」①

大山農協のレストラン「木の花ガルテン」②

注記 地域の事例については、地域を数多く取材した金丸さんのご著書『実践!田舎力 小さくても経済が回る5つの方法』(NHK出版)をぜひ。
 https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000884132013.html
―自給自足で地域活性に取り組む場合、第一次産業人口や収益を確保する課題があると思います。
 
金丸 農業者の確保が大切です。実は農業に関心を深めている若い人は少なくないのです。この10年、毎年5万人が新規就農していて、このうち49歳以下で新規就農をする人は、毎年、年間2万人前後で推移しています。最新2019年の統計をみると、49歳以下の新規就農は1万8450人、自分で起業したのは2270人、農業法人に就職した人は7090人、親の経営に参加したのは9180人となっています(農林水産省)。自治体や国も若い人の支援を熱心に行っていることから着実に定着していると言えるでしょう。
 
そして最近の流れとして農業の法人化が増えていて、受け入れ体制が整ってきていることで、若い人も参加しやくなっています。注目されている大きな動きに、公益社団法人日本農業法人協会があります。同協会には全国の農業法人約2000社が参加し、広報や相談なども熱心に行われていて、インターンシップの制度もあります。

長崎県大村市「おおむら夢ファームシュシュ」のブッフェ

例えば、長崎県大村市の「おおむら夢ファームシュシュ」さんは約30坪の敷地の中で、農産物の販売の他に、ぶどうもぎ取り体験や規格外で販売できなかった果実を利用してのジェラート工房、レストランカフェなど多角的な経営を展開し、コロナ禍の中でも巣ごもり需要を受け、直売所だけで年間で3億円ほどの売上を産み出しています。全体の売上は7億円です。
実は農産物直売所は各地でコロナ禍の中でも売上を伸ばしています。生鮮産品は日常生活で欠かせないためです。
 

長崎県大村市「おおむら夢ファームシュシュ」は料理の体験教室があり多くの人が訪れる

ジェラート工房もあり大人気だ

金丸 ところで就農には、
①独立して自営の農業を始める(独立・自営就農)
②農業法人等に就職して従業員として農業に携わる(雇用就農)
という2つの道があります。
 
①は、自らの農業を主体に行うもので、農業技術の獲得から資金繰り、土地や住まいの取得と、細やかな計画と準備が必要です。
②は、法人に就職という形で農業の仕事に携わるというもの。最近では、農業は生産だけではなく、加工、販売、店舗運営までするところも出てきていて、就農はもちろん、マネジメントや商品開発など、さまざまな職の場をもっていることが特長です。

横須賀市・農産物直売所「すかなごっこ(「横須賀のごちそう」という意味)」①

横須賀市・農産物直売所「すかなごっこ(「横須賀のごちそう」という意味)」②

法人協会のメンバーでは、就職という形での就農ができるところ、新規で独立を支援をしているところ、両方の受け入れをしているところと幅広い受け皿があり、これから就農をする若い人達の選択を広くしていて、そのことが着実な新たな仕事の場を生み出しているのです。

「グラノ24K ぶどうの樹」のぶどうの樹の下のレストラン&披露宴会場

先に事例をいくつか紹介しておりますが、福岡県岡垣町の「株式会社グラノ24K」https://grano24k.jp/もご紹介します。グラノはスペイン語で「種、実」という意味で、一つ一つの事業、スタッフを実に例えたもので、「24K(純金)のような本物の実を実らせることができる会社」に、という願いを込めてつけた社名です。

「グラノ24K ぶどうの樹」のぶどうの樹の下のレストラン&披露宴会場

こちらも独自の企画を展開しており、例えばブドウの樹々の下でのブッフェ付き結婚式は年間240組も申込があるそうです。農産物だけでなく目の前の海も活用し、今までは小さいなどの理由により市場で売られずに捨てられていた魚を寿司にし「海のおまかせ」として販売することで食品ロス防止にも。さらにグランピング施設も充実させるなど多角的な企画を実現させた結果、年間30万人がおとずれるようになった地域です。
就農の取組を支える国など行政の支援プログラムを活用する事例もあります。例えば先に紹介した大村市は行政と連携した取組をしています。351の農業法人などと連携し、2年間ノウハウを教える取組です。こちらは二か月で基礎を学べる農業大学もあり、日当6000円の他、家賃補助も。さらに国の支援も受けれるようにしており、現実的な就農に繋げています。
このほかにも、熊本県の「農業を志す人のための研修機関」NPO法人九州エコファーマーズセンターもこれから農業者を目指したい人向けに現役農業経営者が体系的に指導・育成する取組をしています。
 
令和4年度  ⼤村の農業を新たに担う「担い⼿」づくり事業(⻑崎県⼤村市)
NPO法人九州エコファーマーズセンター
 

「月刊クリンネス」https://www.kanbunken.org/publication/

―月刊「クリンネス」(一社 環境文化創造研究所)で新規就農支援、脱炭素、移住・定住支援、人材育成事業など地方創生の取組を紹介されておられます。脱炭素の取組について紹介した事例や金丸様の御意見をお教えください。

金丸 脱炭素では、これまで3・11以前に、ドイツ・フライブルグ、イタリアに取材をしました。フライブルグは、チェルノブイルをきっかけに、できることをすべて手掛けていて感銘でした。日本は部分的にライトレールや分別ごみ、など取り入れていますが、総合的な取り組みが弱すぎると思います。イタリアは、3.11を契機に原発推進を廃棄。風力や太陽光など徹底することでコスト削減となっています。

ドイツ・フライブルグ

緑と再生エネルギーと歩ける街づくりが行われている

国内では、埼玉県三芳町の石坂産業が、リサイクル98%、再生可能エネルギー、雨水利用、森の再生を行い注目です。このほかに徳島県上勝町は、木質バイオマスの利用、高知県梼原町は早くから風力、地熱などを利用しています。
 
注記:月刊「クリンネス」4月号では「地方に広がる『再生可能エネルギー開発事業』」と題し、徳島県の一般社団法人徳島地域エネルギーを紹介しています。
―地域での再生エネルギー事業と地域活性についてご意見をお聞かせください。
 
金丸 気になるのは、再生可能エネルギー推進事業の多くが風力や太陽光を中心すすめられていて、肝心の地域全体の仕事や産業の連携、景観などに配慮されていないケースが多くあることです。逆に、農業や地域産業で活力あるところに、まだまだ再生可能エネルギーの取り組みが弱い気がします。
 
先ほど紹介しましたおおむら夢ファームシュシュさんやグラノ24Kさんも再生エネルギーとは絡んでいません。連携できることも可能性としてあり得るのではないでしょうか。
 
なんでも相談所 再生エネルギーの話の前に、まず、これほどに多くの若い方々が農業に従事している事実を金丸さんの話で今知りました。こういう地域で農業を軸に活躍される方々と再生エネルギーのマッチングの可能性に興味がわきます。再生エネルギー事業に取り組む方々の中には、地域で電力を作っても地域で消費しきれずに他地域に電力を売っている事実があります。本当は地域で売りたいのです。こういう再生エネルギー側と地域とのコーディネートをエネ経会議としてご協力できたらと思います。
―エネルギー事業においても、若い人材の確保は大切な取組です。若者に届く移住・起業の支援事例など、地域の取組と金丸様のご意見をお教えください。
 
金丸 ここ10年で毎年約5万人が新規に就農しており、そのうち49歳以下の若い人は毎年約2万名です。また、先にも話をしましたが多くの農家が法人化しており、農業経営の基盤を作り若い人の独立支援や就職としての受け入れ体制を作っています。
私としても大学や様々の場所でインターンシップ制度や独立支援プログラムなどを含めて紹介しております。
※直近では愛知県で行われた「食育全国大会」
https://www.youtube.com/watch?v=tYohzld-b0Y
https://www.maff.go.jp/tokai/keiei/shokuhin/shokuiku/event/20220618.html
 
金丸 大学での講義でも学生に紹介。学生からの反響の高いものとなりました。私は現在、明治大学やフェリス女学院大学でそれぞれ150人以上の学生さんに講義をしているのですが、その授業で地域の事例のみならず地域のインターンシップや移住、起業情報もお伝えしています。その結果、SDGs(持続可能な開発目標)を学ぶ学生が実際に地方での就労に意欲的に。持続可能な社会作りの取組を知って、自分もやりたいと思って実際にインターンシップを申し込む学生もいます。都内の大学に通う学生は地方出身者も多く、地方に可能性があるなら、例えば「古民家カフェを開いてみたい」という想いがある学生もいます。そういう学生には日本政策金融公庫が融資している現場の話なども伝えています。

長崎県大村市の農業インターンシップ。(写真提供:大村市)

大村市の新規就農は5年間で90名。 (写真提供:大村市)

金丸 人材育成事業を行い、起業支援を行ってきたところは若者の移住定住が広がっています。
農業では農業が法人化し全国で約3万1000になった一方、農協は戦後1万7000あったものが、現在 551まで激減していますので、法人化の流れは今後も拡大していくかと思います。さらに、法人では多角経営が進展して直売所やレストランをもつところもあります。また農作物直売所も地域で広がり、1億円以上の売りあげるところは2922件あります。力のあるところは10億円を超えるところもあり、これが就職にも繋がっています。
 
一方、全国で空き家は840万戸もあり、空き家率13・9%です。これは国家問題となっています。しかしリノベーションして新たな観光・起業に繋ぐ事例が各地で生まれています。
空き家の利用では日本政策金融公庫が融資をしていますが、再生可能エネルギーの連動がまだまだです。だからこそ連携が求められます。
 
なんでも相談所 人材育成や地域活性、地産地消のしくみに再生エネルギー事業も入っていく仕組み作りや、マッチングの必要性を感じますね。
 
日本まちやど協会
ゲストハウスサイト FootPrints
古民家を繋ぐ「gochi荘」
 
 

唐津くんちの曳山(ひきやま)

―金丸様の御子息・金丸知弘さんも東京から和歌山に移住されておられる「移住者」ですが、なぜ移住しようと思ったのでしょうか。
 
金丸 東京では家賃が高い、子育ても費用がかかる。効率が悪いと、彼は考えたようです。
私の家族は、毎年、私の故郷の佐賀県唐津市の祭り「唐津くんち」に行きます。また、子育てを妻の故郷、鹿児島県徳之島でしました。それで彼は、田舎の暮らしがいいと思ったようです。

唐津くんちの曳山(ひきやま)で各家で出されるもてなしの料理。

彼は高校卒業ののち、イタリア・トリノに本店があるイーターリーで働き、日本一周をしたあと、イタリアピエモンテの料理学校ICIF(Italian Culinary Institute for Foreigners ※https://www.icif-japan.com/)で学び、ミシュランの店でインターンシップをしたあと東京ステーションホテルのイタリアンで働いたあと、結婚して移住しました。イタリアは田舎ほど恰好いい。レストランも人がきている。そんなこともあり移住しました。

イタリアの農村観光の様子

太陽光、風力、雨水の利用など、どこの農家も設置してある。

イタリアは農家で宿泊ができるアグリツーリズムが盛ん

移住には、私たちはまったく反対しませんでしたが、彼の妻の母親と娘が猛反対しました。「田舎がいいわけがない」「娘は友達がいなくなる」というものでしたが、和歌山の説明をして、なんとか移住。娘は移住したら、自然の素晴らしさに加え地域で友達もできて馴染み、彼の妻のお母さんも自然に触れてすっかり気に入ったようです。
 

金丸知弘・りさ夫妻

金丸知弘氏はイタリアで習った料理を注文があれば提供している

金丸知弘・りさ夫妻は住まいとは別に、すぐ近くで1棟貸しのゲストハウス「小家御殿」を運営している

注記:現在、金丸知弘さんの移住の本が発売中です。
『子育て世代のための 快適移住マニュアル
 知っておきたい、田舎でできる仕事・お金・子育て・地域のおつきあい』
金丸知弘著 出版社:誠文堂新光社 価格 1,760円(定価1600円+税)
http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/book/bookdetail.php?no=212&a=1
 
金丸 移住定住の関連団体は「一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)」です。地方への移住・定住の相談・サポートもされています。国や自治体の若い人への支援策が多くあります。どの自治体も移住支援策がとられていて、相談窓口があります。とくに有楽町駅前の交通会館にある「ふるさと回帰支援センター」には45道府県の相談窓口があり、年間2021年には5万名の相談者が訪れています。

注記:国の色々支援プログラムには以下のようなものがある。
まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」(内閣府)
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」 (内閣府)
移住相談窓口「ふるさと回帰支援センター」
各地の地域づくり「地域活性化センター」

 

「ふるさと回帰」支援センター」の自治体の相談窓口

専任の職員がいて移住の相談にのってくれる

―地域づくりのエキスパートとして、再生可能エネルギーと地域活性の可能性につきまして金丸様のご意見をお教えください。


金丸 地域づくりで人材育成をしている和歌山県田辺市、高知県は人材育成で起業も移住も増えています。しかし、再生可能エネルギーの連動性が弱い。一方、再生可能エネルギーでは、その事業に特化しすぎて、地域づくりに連動が弱い。その総合マネジメントを、今後強化すべきと思います。
 
注目していることに、全国の農産物直売所、農業法人があります。生鮮を揃えたところ、消費者連携をしてきたところは、コロナのなかでも、ほとんどが売り上げをのばしています。
しかし、事業所をみると、再生可能エネルギーの取り組みは、まだ弱い。これらと連携があるといいのにといつも思います。
 
また医療費が43兆円となり戦後最大。国家問題となっています。若い女性ではダイエット志向からやせ過ぎで体調不良、男性は肥満・高血圧が増えるなど、生活習慣病が拡大。
「鈴廣」のある、小田原市も生活習慣病が拡大。農業もミカン、水稲の消費量が激減していて、農業の仕組みの転換と食育が必要です。それらと連携しての再生可能エネルギーを繋いでいければと思います。
 
なんでも相談所 我々自体は事業を行う組織ではありませんが、エネルギー課題から地域のお手伝いをする組織として連携の可能性は考えていきたいと思います。現在の再生エネルギーは、大量に作って売ることがメインとなっておりますが、将来的には地方で作ったエネルギーをその地方で使用する形、使用する方法の検討も必要となってくると思います。
金丸 再生可能エネルギーに取り組む方々は、ぜひ地域コミュニケーションを深めて欲しいです。地域の小さな事業者や若者起業と連携して、小さなところからできるところから、進めて欲しい。
今後、再生可能エネルギーだけではなく、活力あるリノベーション活動、人材育成事業、農業活動の優良事例などのノウハウ連携を進めて欲しいです。
 
なんでも相談所 自分たちが使うエネルギーに地域の再生エネルギーを使用する事例を作ることも必要かと感じました。地域の農業法人の皆様の中で、地域で作る再生エネルギーへのニースがあればぜひ連携できる仕掛けのお手伝いが出来たらと思います。