ウィンドと名付けたと言いましたが、現在は風力のみならず太陽光発電にも力を入れています。そして電気を生むだけは無く、電力の地産地消を掲げた神楽電力株式会社もスタートさせております。
 
—地域ごとに設立してみて地域からの御反応などは。
 
矢口:音と景観については当初は厳しいご意見もかなりいただきました。江津の風車の側には集落がありましたので、建てる以前から何度も説明会を行いました。また、できるだけ音が小さくなるように、風車に工夫や改良をほどこしました。
 
そもそも風車というものは非常に大きく、羽一つとっても長さは40メートルもあります。その建設となればそれが何十枚も町中を通らねばなりません。大型トレーラーの低速運転によるご迷惑を避けるべく真夜中に運ぶのですが、その大きさゆえに運搬だけで一ヶ月はかかる作業となります。つまり、運搬ひとつをとっても地域の方々の理解がなくては立ちゆきません。
さらに風車はどうしても稼働中に音が出ます。我が社は比較的音が出ない羽を使用していますが、それでも尺八のような「ボー」という音がでます。
 
ですが、ありがたいことに、地域の皆様から最近は音への苦情はいただいておりません。それは我々が地域の為の会社として活動してきたことが受け入れていただけたからだと思っております。地域の生活の中にある音としてご理解をくださった地域の皆様に感謝しております。
 
―太陽光発電にも取り組んでおられます。

矢口:太陽光などで発電した電力の全量買取り制度を軸にした再生可能エネルギー特別措置法は平成23年(2011年)に成立し、ソフトバンクの孫正義社長が大規模太陽光発電所(メガソーラー)を提唱するなど大手企業が動き出した流れもあり、浜田市にも外部から大手が太陽光発電に参入してきました。ですが、それでは地元資源の地域活用ではないと思い、自ら太陽光発電を行うことにしたのがきっかけです。当初は浜田ソーラ―パワーという名称も考えていましたが、娘のアイデアを採用して沖縄の言葉で太陽を意味する「ティーダ」にしました。娘というより地域で育ち、地域で暮らす若い人達の声を反映したとも言えますね(笑)
 

長女、次女と高津川風車

技術社員と高津川風車

―当会議のメルマガ2021年7月号で「エネルギーを手段とした地域経済の活性化、エネルギー・資金の地域循環を目指しています」と話してくださいましたが、東京育ちで、もとは島根に縁がなかった矢口様が島根の地域との関わりから事業のきっかけとなった出来事は何だったのでしょうか。
 
矢口:妻が島根県の浜田出身でした。その浜田に私がIターンする形で島根県に縁をいただきました。それまでは戦艦大和の大砲を作ったことで知られる鉄鋼会社に勤務しておりましたので、当時からエネルギーには関わりがありましたが、Iターンし、輸入卸会社の経営をしながら地元の商工会議所青年部で地域おこしに取り組む中で「これからは自分で風力発電をやってみよう」と思い起業しました。地域の皆様とのご縁も後押しになっております。
 
 
―立ちあげにあたり、最初の風車の建設が2年遅れた理由は。また、風車を立てるにあたり地域への説明で心がけたことは何だったでしょうか。例えば景観や騒音、そして地域経済への貢献など…この地域の風況はどうですか、またどのようにして調べたのかなど調査についてもお教えください。

 
矢口:当初立ち上げが2年遅れたのは、景観の問題への対応などで行政の段取りに時間がかかったからです。ですがこの「産みの苦しみ」がその後に活きました。2年がかりで県が出した答えは結論先送りというものでしたが、そのときに浜田市長が責任をもって進めると言ってくれたんです。それならというので、島根県は容認に転じました。タイミング(運)も良かったと言えます。島根県も近くに風車を9基建てると発表しましたので、県が動くなら…という風も吹きましたので。その結果、江津では11基も立てる計画でしたが計画通りに立てることができました。運が良かったですね。

なにより、「産みの苦しみ」を乗り越えることができたのは、それまでの生活の中で青年部の皆様とご縁が出来、取組へのご理解をいただけていたからだと思います。
 
また、風況については、風が強そうなところを風速計で最低1年間データを自分でとり、計測しました(機材はメーカーに頼んで)。短くて1年間、長くて10年以上のところもあります。まだまだ開発中ですから、計測は継続中です。
 
―現在、13基の風力発電機(出力1基あたり1,500~2,000kW/h)、2MWのメガソーラーと、そして電力小売を行っておられますが、事業展開の際、当初から小売も視野に入れて計画されていたのでしょうか

矢口:風力・太陽光併せて4社の経営をしておりますが、それまでは作った電力は全て中国電力に売っていました。ですが、電気の地産地消を目指し小売りの「神楽電力」を設立。それまでは中国電力が①作る②送る③売るーの3つのすべてを行う組織構成でしたので、私たちは当初、そのうちの①を事業化し、②③は中国電力にお任せしていましたが、2019年に中国電力は②について事業を分離させ、中国電力ネットワークを設立しました。それ以前に平成28(2016)年から電気の小売業への参入が全面自由化されましたし、この流れは想像できました。そのような社会の変化を受け、私たちも自身で小売りを展開することにしました。江津市の公共施設の約8割に対し、自社の風力発電も含む山陰の再生エネルギーを供給し始めております。発電した電力については地域の他に「みんな電力」さんにも卸して(特定卸供給)おります。これは地域にも利がある取組をしたいためです。
 
とはいえ地域の電力の需要と供給のバランス維持は大変です。将来的には地域で使う分を100%作り、余剰分の電力は外に売るようなバランスを取れるようにしていけたらと考えております。
 
 
―それぞれの地元に法人税が落ちるよう、中国ウィンドパワーの子会社という形で益田ウィンドパワー、江津ウィンドパワー、ティーダとを設立して、中国ウィンドパワーから社員を派遣する形で運営していると伺いました。これも地域の課題に対しての解決策と思います。それ以外にも取り組んでいることはございますか。
 
矢口:まず法人税で地域のためになることは意識しました。先にも話しましたが風力発電の羽をひとつ運ぶだけでも大変な作業です。例えば江津は11基ありますので、羽33本、そしてタワーや発電機も運びます。これらを運び、そして運営する中で、地域の方々にご迷惑をお掛けし、ご協力を頂いておりますので、逆にそのお返しとして地域の会社として起業し、地域のためになる活動をしていくべきだと思いました。
 
そして、スタッフは当初、中国ウィンドパワーから派遣するという形でした。ですが、現在は地域でも人材が育ってきており、現地に社員が所属し、地域で動かすような流れもできつつあります。人材育成、ノウハウの蓄積という形で地域の課題にも取り組んでいけたらと思います。
 
 
—神楽電力の「神楽」は石見神楽でしょうか。江津東ウィンドファームの11基の風車には、石見神楽に登場するキャラクター等のイラストが描かれていると伺いました。
 
矢口:はい、石見神楽です。当初はGRIT(グリット)という名前でしたが、やはり地域に馴染んで行きたいという想いから「神楽」にしました。
 
浜田の神楽は大人のみならず子供も楽しんでいる地域芸能で、華やかで面白いんですよ!風車に描かれたキャラクターも神楽に登場するので、地域の皆様は風車について、ナンバリングではなく、キャラクターから「大蛇の風車」として認知してくださっています。また、6号機のキャラクターは、柿本人麻呂とよさみ姫(中央に呼び戻された人麻呂と死別するのですが、風車の上では永遠に一緒です❤)をモデルにしており、江津市ご出身の童画家さんにお願いしました。これも地域のキャラクターを地域で描き育んでいきたいと思ったためです。
 

江津風車石見神楽

人麻呂とよさみ姫

これら風車のキャラクターは地域の自治体のスタンプラリーに活用いただくことも期待し、石見神楽の宣伝にもなればと思いました。地域の神楽の様々なキャラクターを育てていずれは、それらキャラクター自体も売っていけるようにしたいですね。
—地域が大切に伝承してきた地域文化も大切にされている、ということですね。地域との付き合い・関わりについて、これ以外にもどのような取組みをされていますか。
 
矢口:最初から地域の為の会社として設立し、行政にも地域の皆さまにもそのように認識していただけるよう、名前だけではなく行動で示してまいりました。地域の方々と共に海岸清掃すること、出前授業(保育園~大学)、風車見学会、駅前活性の取組、地元イベントへの電力サポート、空き家の活用、地域のNPO団体への支援などなどです。こうした地域での活動が地域の皆様からの信頼に繋がり、結果として風車への苦情はゼロになったのだと思っています。
 
その他、地元産品の㏚にも取り組んでいます。先に、電気を「みんな電力」に卸していると話しましたが、これがその活動に繋がっています。みんな電力HPでは地域の電力会社応援のサービスがあり、応援してくださった方に応援のお礼として地元産品をプレゼントしております。具体的には浜田のティーダはのどぐろ、益田ウィンドパワーはメロンです。

地域で会社を作り、現地で活動をすることで我々の顔が地域の皆さんに見えることが今の活動の基礎になっています。地域での取組は地域社会と共に発展したい我々の今後の展開にも関わる話なので、次回のインタビューでも御話しいたします。

 

のどぐろ

メロン

【編集部】
自然環境を活かした再生可能エネルギーは、地域社会そして社会全体を維持し発展させていくために、重要な電源です。矢口様の、課題に対して一つ一つ着実に地域に寄り添いながら取り組む姿から、主力電源化へ向けた着実な歩みを感じました。
次回は後編として将来展望などについてのインタビューをお届けいたします。

 
石見神楽とは
賑やかで哀愁漂うお囃子の中で、豪華絢爛な衣裳を身にまとい演舞される石見神楽は、古来より石見地方に伝わる伝統芸能で、日本国内はもちろん、海外でも大きく評価をされています。2019年5月には日本遺産にも登録されました。
※引用:島根県西部公式観光サイト「なつかしの国石見」
https://www.all-iwami.com/kagura/detail_47.html