「50年先に思いを馳せる」

　私の地元のローカルな話で恐縮ですが、小田原には小田原出身の二宮尊徳翁を祀った報徳二宮神社という神社があります。二宮尊徳翁（1787〜1856）とは、一般的には、全国の小学校にあった薪を背負って本を読んでいる幼少の頃の姿、金次郎（金治郎）の銅像でなじみがあると思います。農家の出ながら、小田原藩をはじめ今の栃木県日光、静岡県掛川など600ヶ所の復興、今で言えば地域の再生に功績があったとされています。http://www.hotoku.or.jp/sontoku/sontoku/

　二宮神社では、神社創建120周年を記念して、先月8月30日、「御木曳き（おきひき）」と「立柱祭」いう行事がありました。入口にあった老朽化した既設の鉄製の鳥居を、周囲の道路整備の兼ね合いもあり、場所を少し動かし新たに木製に換えることになりました。3年前から計画が始まり、せっかくならば、地元産の木でと、市内の久野というところにある森から高さ35メートルの樹齢300年の杉の大木を分けていただき、その木を地元の林業組合の若手が製材し、これまた地元の棟梁たちが鳥居に仕上げるという地元の人たちによる一大プロジェクトでした。地元にこんなすごい木があるくらい豊かなこの小田原の自然を、そして、地元にこんなに熱と素晴らしい技術を持った若い人がいることを、より多くの市内外の人に知ってもらいたいという思いからの取り組みです。

　当日はかんかん照りの中、老若男女約500名が集まり、大鳥居の笠木になる長さ12メートルの御木を皆で引いて、小田原城の城址公園のお堀を巡って神社まで運びました。その後は棟梁たちの技の見せどころ。一寸の狂いもなく木どおしが支え合い、見事に大鳥居が立ち上りました。

　二宮神社の宮司さんはご挨拶の中でおっしゃっていました。地元の材を地元の力と技で活かすことで、多くの人に、特に小田原の人たちにわがまちの魅力を知ってもらいたいと。そして、私が一番感銘を受けたのは、この事業を50年おきにやっていくという決心したというくだりです。ご存知のように、伊勢神宮では、20年おきにお社を建て替えて神さまが引っ越しをなさる遷宮という大事業を1300年に亘って（室町時代に一時中断したこともあったそうですが）繰り返しています。　これを見習って、二宮神社では50年おきに大鳥居の建て替えするとするというのです。この大木を曳いた人のうち、50年後にこの世にいる人はどのくらいいるでしょうか？（私は確実にいないと思いますが…）

　AI（人工頭脳）とかIOT（インターネットオブシングス）とかますますスピードアップする現代の暮らしの中で、50年先のこと、それも自分がすでにいなくなった世の中のことに思いを馳せ、50年後の人たちのことの幸せを願い、そのために今自分ができることを実行するというのは、今の時代にはなかなかできないことだと思います。私も含め、会員の皆さまも、商売の現場で一喜一憂、四苦八苦の日々かもしれません。目先のことしか見えない毎日かもしれません。もちろん、決してその現実から逃げるわけにはいきません。でも、しかし、同時に、自分の人生を超えた時空の中に今の自分を置いてみる、その時間軸での中で今を考えてみるという一瞬もあっていいのではないかと、汗だくで御木を曳きながら思ったしだいです。エネルギーのこともまさにその視座が必要だと、エネ経会議の役割の大切さを改めて感じているしだいです。

◆　鈴木代表理事　行動予定